春は、あけぼの③
“面接?会社説明会?”
「オカンもアネキも、一体僕のどこを見ているんだ? どう見てもお洒落でしょう?」
「お洒落??」
二人とも驚いてポカンと口を開けたまま、僕を見ていた。それはまるで“開いた口が塞がらない”とでも言うように。
「フサト、あんたその恰好で、どこ行くつもりだったの?」
アネキに聞かれたので、開き直って「女の子の家に呼ばれた」と、思いっきり胸を張って答える。むろん大爆笑されるのは承知の上で、だ……。
だが、しかし、二人の体が凍り付いてしまったのか、はたまた時間が止ったのか、何の反応もなく口を開けて僕を見ているまま。「えっ!? なに?? もしもし――」
「おわっ!ビックリしたぁ~!」
突然出されたアネキ大声が、凍った時間を打ち壊す。
そして、いきなり僕に襲い掛かり、上着を剥ぎ取りズボンのベルトに手を掛ける。
「い、いや。アネキ、そ・それは、姉弟ではイケない行為で、しかもオカンも見ているし」
アネキは、性格は悪いけれど、僕と違って容姿はソコソコ良い。
少しポチャ子だけに、胸もビックリするほどデカイ。もちろん腹も……。
鮎沢さんを清純派アイドルと例えるなら、アネキはAV女優。しかも企画もの専用の。
そのアネキが、ズボンのベルトをスルスルっと抜き取ったかと思うと、次はシャツのボタンに手を掛け、それをも脱がすと手を引いて僕の部屋にドタドタと上がって行く。
“アネキ!欲情の赴くままに僕を襲うには止めてくれ!僕は今日、鮎沢さんと言う超可愛い女性の家に呼ばれているんだ!”
「鮎沢さんって言うのね。どこの子?同じ大学?」
「相模原の方らしい、むろん同じ大学だ……って、なんで人の考えていることが分かるの?!」
「言っとくけれど、フサトの考えることは、ほんの少しだけど口から洩れて聞こえているのよ!」
「オーマイガー!マジかよ」
僕のタンスを空けて、服やズボンをまるで噴水のように巻き上げるアネキ。
“いったい何?”
「デートに着ていく服を探してあげているのよ。……それにしても、ロクな服が無いな」
そうして、選ばれた服に着替えさせられて、姿見の前で「ハイ出来上がり」
「ハンカチ」そう言って脱がされたスーツのポケットからGUCHIのハンカチを取り出すと「バカか!」と取り上げられ、普通のありふれたハンカチを渡された。
「折角オトンが海外旅行のお土産に買ってきてくれたブランドものだぜ!?」
と反発すると「バッタモン持って行って笑われたいの?これはGUCHI。本物はHのところがCなのよ」
“オトン、中国まで行って、騙されて来たんかー!!”





