春は、あけぼの①
結局、住之江部長は私と江角君の関係に、やきもちを焼いていたみたい。
それで、二人揃って入部させてしまうとイライラして自分のペースを乱されてしまうので、私を落そうとしたって訳。
私は、そんなことはしないけれど、好きな子に相手が居て、それを毎日見せつけられるのは大変なことだと同情する。
そして、その原因が自分自身であることを申し訳なく思う。
次の日からの練習中、何度も住之江部長の顔を注意して見ていると、やっぱりソワソワして辛そうなのが分かった。
屹度、私が居続ける限り、住之江部長の辛い気持ちは続くのかも知れない。
そう思うと、私が一人しかいないことが辛くなる。
家でロンにその事を話してみた。
ロンからは何も返事は返ってこない。
話が詰まらないのか、途中で欠伸をして、話しよりも私に甘えようと膝の上に頭を乗せて来て気持ちよさそうにしている。
ロンには、やっぱリアルな恋話は無理なのかな?
いつの間にかスースーと寝息を立てているロン。
こんなリビングで気持ちよさそうに寝られても、困る。
だいいち私は、勉強しておかなければいけない事が沢山あるのだから、早く勉強机に着きたい。
だからと言って、気持ちよさそうに寝ているロンを起こすのも可哀そう。
もう一人私が欲しい……。
もう一人、私が居れば、もしかしたら部長さんの願いをかなえてあげる事が出来るのかも知れない。
もし、そうならなくても江角君と言う彼氏の居ないもう一人の私を見て、心を和ませてくれればいいと思った。
“もうひとりの、わたし!”
そう思って、ピンと来た。
直ぐに携帯を開いて、江角君に相談したら、いいよと言ってくれた。
それで私は明日の部活が終わったあと、住之江部長にお願いして見る事にした。
今日も落ち着きのない住之江部長。
部活動中も、部活が終わっても、私と目を合わす事も無い。
背を向けている部長に近付いて声を掛ける。
「部長」
部長の肩が小さくピクっと反応するのが、背中越しでも分かった。
でも部長は気が付かないふりをして、譜面をパラパラと忙しなく捲り続けている。
「あのっ!」
さっきより大きい声で言った。
周りの喧騒も、その声に気が付いて黙り込む。
小さな咳ばらいを何度かしながら、何でしょうと部長が振り返りもせずに、答える。
「次の土曜か日曜日、空いていますか?」
「ど、ど土曜日なら、空いているけれど、なにか?」
「もしよかったら土曜日、家へ来てもらえないでしょうか」
部長が慌てたのか、譜面の何枚かを床に落とした。





