ビバ、オーケストラ♪㉑
あくる日、昼食を終え横溝さん達と一緒に、いつもの通り中庭でお喋りをしていた。
こうして皆といると、声を掛けられる事も無く安心して居られる。
春の穏やかな日差しの中まったりと寛いでいると、突然池の反対側から騒がしい声が聞こえてきて見ると、そこには美緒と滝沢さんがいた。
「ちょっと見てくる」
「あれ、滝クリじゃん」
「もめ事なら、近寄らない方がいいよ」
「うん。でも、知り合いだから」
そう言って席を立ち、池の反対側に行くと、美緒と滝沢さんに挟まれているのは住之江部長。
「どうしたの?」
「現行犯逮捕よ」
滝沢さんの言う“現行犯”が何を意味するのか分からない。
「ほら、これが証拠物件!」
美緒が住之江部長のノートを突き出す。
見せられたノートには、シャーペンで書きなぐられた音楽費号がぎっしりと書かれている。
「譜面?」
「そうよ、読んでみなさい。分かるから」
「か、か、返せ!」
部長の言葉に躊躇っていると「早く読みなさい!」と部長を押さえつけている滝沢さんに叱られ、慌てて譜面を読む。
乱雑に書かれた音符とは裏腹に、そこにあったのは甘く切ないメロディー。
部長には悪いけれど、あのイライラそわそわした雰囲気とは全く違う、綺麗で純粋な曲。
「で、これが一体……?」
「うわぁ~。少し疎いところがあるとは聞いていたけれど、こりゃ少しどころか天然記念物級ね」
滝沢さんが、そう言って驚いた。
「でしょ♪」と、美緒が自慢そうに言う。
失礼しちゃうわ。
「千春ちゃん、その曲はどんな曲か言いなさい」
「今日のお天気のような、穏やかで甘くてほんの少し切ないロマンス系?」
「ハイ正解。それで分かったでしょ」
滝沢さんに言われても、なにを分かれば良いのか全く分からなくてキョトンとしていると、美緒がタイトルのページを捲って「これっ!」と指で示す。
そこには英語で『Dream of the love to give in 1,000 spring』と書かれてあった。
なかなか曲の雰囲気にピッタリの好い題名だと思い、感動した。
その私を見た滝沢さんが、不思議そうにノートを覗き込んで「なんて訳した?」と聞いてきたので「千の春に捧げる愛の夢」と答えると呆れられた。
「えっ、違うの?」
「あー、もう頭が痛くなってきた。美緒替わって」
そう言って、今度は美緒が来て説明してくれた。
「いい?ここの1,000 springは千回の春じゃないとして、別々に訳すとどうなる?先ずここは?」
美緒の指が1,000を指す。
「千……」
「じゃあ、ここは?」
「春」
「つなげると?」
「千春――千春!わぁー私の名前になった♪」
「こら、喜ぶな!」
美緒にゲンコを入れられた。





