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ビバ、オーケストラ♪⑲

 その間、部長さんはみんなの練習具合を確認するように、周りを歩いて、たまにアドバイスを言っていた。


「えっ船橋さんどうしたんですか?」


 ボーッとしているのに気が付いて美緒が言うと、船橋さんはハッと我に返ったように驚いて「あっ」っと小さく呟いてからまた何事も無かったように練習を再開した。

 その驚き方は、あまり気付かない私でさえ、なにかあると分かるものだったのに美緒は全く気が付かずに練習を始めたのが不思議だった。

 今練習しているのはリムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』

 ヴァイオリンの合奏やソロを主体にしながらもファゴットやオーボエ、クラリネットの独奏も入るオーケストラならではの曲。

 しかも演奏時間も、今まで私たちが演奏していたものに比べて、はるかに長くて45分間の集中力が要る大曲。

 まあ、この曲の元になったのが『千夜一夜物語』の語り手、シェヘラザードの物語をテーマとしているので大曲になると言うのも頷ける。

 皆が担当ごとに分かれて練習している間中、部長さんはソワソワと各担当ごとに見て回りアドバイスや注意箇所のチェックを行っていて、ソワソワしている以外は高校1年の時の鶴岡部長にスタイルは似ている。

 その部長さんが、隣のコントラバスの人たちと何か話していたので、次は私たちの番だと思っていたらスルーされてしまった。

 そして二巡目も。

 結局、この日は私たちのグループに部長さんが来ることは無くて、ホッとする傍らなにか凄く拍子抜けしてしまう。

 そして次の日も、その次の日も。


「木管はフリーなんですか?」


 思ったままを船橋さんに聞いたけれど「まあ、そんな日もあるでしょ……」と、船橋さんの答えは、わざと気にしていない素振りに見えた。


「いいじゃん。あんな変な人が来ない方が集中できるわ」と美緒が言う。


「たしかに変な人だけど、なんとなく敬遠されている気がしないでもない」


 帰り道に、部長さんの話をしていたら、伊藤君が「お前ら、完璧に無視されてんな!」と茶化してきて、やっぱりそうなのだと思った。


「江角君は、どう思う?」


「たしかに変だけど、スタイルは鶴岡部長に似ているから、木管を無視していると言うより特に指摘事項が無いのかも知れないね」と、私を安心させてくれるように言ってくれた。


 さすが江角君。

 その言葉に、少し安心しかけた所に滝沢さんが矢を放つように言った。


「無視されているよ」と。


 そして、その原因が私であることも。


“いったい、どういう事?!”

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