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ビバ、オーケストラ♪⑧

 木管楽器の中で、捕獲的にソロパートの多いオーボエにあって、その代表と言えるのがこの『白鳥の湖』

 ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』"第2楽章"のように、ゆっくりでなく。

 モーツァルト『オーボエ協奏曲ハ長調 K.314』のようにキー操作やテンポが速いわけではない。

 どちらかと言うとキー操作はし易く、テンポも丁度吹きやすい速さ。

 だから良く初心者の練習用に使われる。

 けれどもこの曲は難しくて、単調になると直ぐに夜泣き蕎麦のチャルメラみたいに安っぽく聞こえてしまう。

 そしてこの時、みんなの方に向き直り吹き始めて直ぐに滝沢さんと目が合ってしまい私の心は動揺してしまった。

 真直ぐに私を見つめる、澄み切ったその大きな瞳に。

 江角君を捉えた瞳。

 私から、愛する人を奪ってしまった瞳。


 でも、今は集中しなくては――。


 しかし、集中しようとすればするほど滝沢さんの瞳が私を捉えようと追いかけてくるのが分かる。

 逃げようと走れば走るほど、追い詰められてゆく。

 いけないと思えば思うほど意識はリードから離れて行き、曲が単調になり、自分でもチャルメラを吹いていると思い悲しくなる。

 焦っても焦っても、それは是正できなくて、もはやコントロール不能。


“誰でもいいから、私を止めて!”


 心の中で悲鳴を漏らす。

 俯いて、もうどうしようもなくなり、自分から投げ出してしまおうとした瞬間、それは起きた。


 聞こえて来たのはヴァイオリンの伴奏、そしてファゴット。

 凍てついた心に温かさが徐々に戻って来て、しばらくするとクラリネットの調べが、私と同じリズムをなぞる。

 温かさは、やがて熱さへと変わり、心を閉ざししていた大きな氷の塊を持ち上げ、扉を開く。

 今までの演奏が嘘のように、自分の音に自信が持てるようになる。

 目の前にいる伊藤君が、トランペットを構えるのが見えた。

 この先からオーボエの独奏パートが終わり、盛り上がるシーン。

 仲間と一緒に、ここを演奏したいと思った。


「はい。もういいよ」


 そう思った矢先、部長が演奏を止めた。

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