別れと始まり⑧
4月。
新しい学年が始まる。
3月まで一緒だった里沙ちゃんは、頑張って見事調理師免許を取り1年制の専門学校を卒業した。
だから今朝の電車には里沙ちゃんはもう乗らない。
高校の3年間と、学校は違ったけれど、そのあとの1年間の合計4年間同じ電車に乗って通い、中学から今までずっと一緒だった。
その里沙ちゃんがホームには居ないと思うと、寂しくて駅に向かう足取りも重い。
改札口の前まで来て溜息が出てしまった。
いつもの駅舎が、まるで色帯びていない殺風景なものに感じて。
突然 “トンッ” と肩を叩かれる。
また、伊藤君の悪ふざけかと思った。
今日の私は色々と機嫌が悪いのだ。
ムスッとしたままの顔で振り返ると、そこには里沙ちゃんが居て驚いた。
「里沙ぁ!」
思わず名前を呼んでしまう。
「どうして?」
里沙ちゃんは笑って、ただ「いってらっしゃい♡」とだけ言ってくれ、私もそれに「いってきます♡」と応えた。
そして今まで殺風景だった景色が、急に春の息吹を与えられ活き活きと感じられるようになった。
電車に揺られて大学を目指す。
金沢八景に着いたので伊藤君たちに手を振って、江角君と電車を降りた。
ここまではいつも通りだけど、電車を降り改札を抜けると私は西、そして江角君は東。
お互いに離れられずに電車の出て行ったホームに残る。
繋いだ手を解けない。
人の少なくなったホームで見つめ合う。
強く抱いてキスして欲しい。
行くなと言って欲しいし、行かないでと止めたい。
だけど留まっては居られない事は分かっている。
私は江角君に寄りかかるように通路を進み、そして手を解く。
「お互いに振り向きっこなし」
「えっ!?」
江角君の言葉に戸惑うと、これから毎日のことだから慣れないと駄目だと言われ、おでこにキスされた。
元気を貰って「うん♡」と言って西へ向かう。
もう振り向かない。
そう思ったけれど、やっぱり振り向いちゃう。
そしたら、江角君も振り向いていて、大きく手を振って笑っていた。
“もーっ、江角君の嘘つき!”





