表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
632/820

別れと始まり④

 高橋さんの手を取り泣いている私を甲本君と伊藤君が「いよっ、感動屋!」と囃し立てる。


 今川さんが「ついに発表しちゃったんだね」と言って高橋さんの肩をポンと叩く。


「もう、知っていたのなら教えなさい」


 私の言葉に今川さんが小さな声で謝ると、里沙ちゃんが「駄目、駄目。千春に同じ大学に行くこと教えちゃうと、受験する本人以上に気持ちが入っちゃって大変なんだから」


「そうそう。それで、直前にダウンしちゃうの」と瑞希先輩が言うと、今川さんが直ぐに反応して「それって、三年前のパッヘルベルのカノンの時のことですか?」と聞く。


 田代先輩が「あーあのハンター坂の……」と言って一座は笑いに包まれた。


「まぁ、いいんじゃないですかね。先輩のおかげで休むことが出来たのですから」


 今川さんの言葉に、これまで何度も繰り返し頭を過っていた“もしも”が蘇る。


 もしも、あの日練習を休んでいなかったら……。


 先生も、みんなも、それについては休んだことでチャンとした演奏が出来るようになったと何度も言ってくれたけれど、本当にそうだったのだろうか?

 あの日、私がダウンして、それがきっかけで翌日の練習は全体で休みになった。


 でも、ダウンしなければ全体で休みにすることもなかった。


 そうしたら、全国大会で銅ではなく、もっと上を目指せたのでは……。


 実際に、私が部長を務めたときは最後まで休まずに続けて金賞を取った。

 ずっと私の背中に手を当ててくれていた高橋さんが「また、いつもの癖が出ています」と、私に言った。


「いつもの癖?」


 振り返ると、高橋さんは、直ぐ自分を追い込もうとする癖だと、呆れたように笑った。


「そう?」完全に見透かされて居るとは分かっていたけれど、少しだけ抵抗するつもりで言うと「他人に対して疑うこともせず常に寛容なのに、自分の心は疑ってばかりで、その言動にも厳しいところ」と言われた。

 丁度、江角君と滝沢さんのことを最近疑っていたばかりなので、恥ずかしく思いながらその言葉を聞いていた。

 その顔を、高橋さんがジッと見ていて慌てた。


「さっ、先生たちも待っています。それに御馳走も」


 私が何かを言い出す前に、高橋さんの方からそんな風に言われ驚いた。

 高橋さんの、そっけない態度がいつもより優しく思える。

「さあ、行きましょう」と手を繋いで引っ張る。


 一緒に歩きながら、驚いて見上げると高橋さんは振り向かずに「好きだからです」と答えてくれた。


***参考***

全国大会前に千春がダウンした件=ハンター坂

https://ncode.syosetu.com/n9464ec/274/

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ