別れと始まり③
河原の道からドドドと言うオートバイの音が聞こえてきた。
あの低い音は甲本君のオートバイ!屹度後ろ座席には高橋さんを乗せて来ているに違いない。
音のする方に向き直って、甲本君のオートバイを探す。
大きな音を出しているから、直ぐに見つけることが出来た。
ステッカーだらけのヘルメットに、革ジャンを羽織った甲本君。
しかし、その後ろに高橋さんは居ない。
もっと良く見えるように、背伸びをしてみたけれどやっぱりいない。
「どうした?」
足立先輩が不思議そうに聞いてきたので、高橋さんが未だ来ていない事を伝えると「それで背伸びをして、良く見えるようにしたわけだ」と言われ「はい」と答えると「高橋は忍者じゃないから、後ろ座席に普通に座っていなけりゃ居ないよ」と大笑いされた。
たしかに、その通り。まさか高橋さんが甲本君の影に隠れるように、オートバイの横にぶら下って乗る訳はない。
そう思うと私も可笑しくなって笑った。
私たちが笑っているところにバイクが止り、ヘルメットを脱いだ甲本君が「楽しそうだな、また鮎沢が“とんちんかん”なことでも言ったのか?」と言い、足立先輩をもっと笑わせた代わりに私を黙らせた。
「先輩、お久しぶりです」
急に高橋さんが甲本君の後ろから現れて、私が驚いて甲本君のバイクの隠れた横の部分を確認するように見ていると、足立先輩がそれを見て更に笑う。
「先輩、わたし忍者じゃありませんから、先輩が想像するような不思議な乗り方はしませんよ」
「えっ、でも、だって……」
戸惑う私に、高橋さんは人差し指を見せて「私のは、あっち」と、甲本君のオートバイの後ろに止まっている車を指さした。
直ぐ後ろに着いて来ていた車に気が付かなかったことが少し恥ずかしくて、そのライトグリーンの軽自動車を、手を日指にして遥か遠くのものを仰ぎ見るような仕草をして見た。
その様子を見て、いったん笑いの止まりかけていた足立先輩がまた笑い出して、私に手を掛けて「チョッとヤメテ千春、私を笑い殺すつもり」と苦しそうに笑いながら言った。
私は足立先輩の背中をさすりながら「知らないよね。自分で勝手に笑っているだけじゃん!」と甲本君と高橋さんに同意を求めると、甲本君がクククと笑い始めた。
「さすが、相模原随一の笑いのセンスですね」と高橋さんが言った途端、甲本君が「関東一だよ」と大笑いし始めて、それにつられるように足立先輩は笑い崩れてしゃがみこんでしまった。
「もーっ」と、笑う皆に機嫌を損ねた顔を見せると「先輩は、相変わらず“お子ちゃま”みたいですね」と、膨らませたほっぺをツンツンされ高橋さんにまで笑われた。
さんざん皆に笑われて、少し不機嫌になった私の手を、わざわざ真正面に向かい合うように回った高橋さんが取る。
“なんだろう?もしかして百合??”
私よりも背の高い高橋さんを見上げられずに、取られた手を見ながら少しドキドキしてしまう。
「わたし、百合でありませんから」
“わっ、いつも通りよまれている”
「鮎沢先輩。4月からは、また後輩として可愛がって下さい。お願いします!」
頭を下げた高橋さんを見上げた。
「それって……」
「そう。合格しました。今までナイショにしていましたが先輩と同じYCUです」
急に涙が出て来て、嬉しくて高橋さんに抱きついて喜んだ。
「おめでとう。おめでとう」
嬉しくて、おめでとうを連呼するだけで抱きついたまま離れない私に、高橋さんが小さな声で言った。
「先輩とだったら、百合でも好いですよ」って。





