春の海㉘
江角君の温もりに包まれた後は、ロンと三人で春の砂浜を駆けって遊んだ。
前から慣れてはいたものの、それでも家族ではない江角君には遠慮があったロンも、今日は容赦なく襲い掛かり、私同様に何度も砂浜に転ばされていた。
稲村ケ崎で羽目を外して遊んだものだから、車に乗せる時のケアが大変。
そう思って、準備をしていると「テキトウでいいよ、どうせ俺たちも砂だらけなんだから」と江角君。
「でも……」と、折角言ってくれたことに抵抗があった私が言うと「まあ、綺麗にしてくれるんなら、俺もロンみたいに裸にならないとチャンと綺麗になったことにはならないな。その場合背中に着いた砂とか、自分では見えない部分が難しいなぁ」
そう言って私に背中を見せて、振り返る。
洋服越しだけど、広い肩幅に、大きな背中、キュッと引き締まったお尻に長い手足がセクシーで顔が赤くなる。
“別に、江角君の裸を拭いてあげる事を想像したわけではありませんので、あしからず”
「ありがとう。じゃあ軽くで、良い?」
「いいよ」
私は軽くロンの体をブラッシングしてから、指の間に入った砂を落して、ロンを車に乗せながら“ありがとう、か……”と、自分の言った言葉を心の中で呟いて。そして心の中で溜息をついた。
江角君が私に気を使って言ってくれたことはよく分かるし、そもそも砂浜で燥ぎまわったこと自体が、その気遣いの伏線になっている事も。
そして私は“ありがとう”と素直ではない言葉を返してしまった。
“ありがとう”は、いい言葉だけれど、いつもただ良いだけではイケない。
『可愛い子には旅をさせろ』ではないけれど、冒険があってこそ人は成長する。
もしも、さっき“しょうがないなー、じゃあロンが終わってから綺麗にしてあげるから”なんて冗談を返せたなら、どうなっていただろう?
江角君は本当に服を脱いで、その逞しい背中を見せてくれたのだろうか?
そして私たちは――。
「暗くなったから、もう俺が運転するね!」
私の想像を打ち破る明るい声。
「うん、ありがとう」
ロンにシートベルトを掛けて、助手席に乗り込む。
「楽しかった?」
「うん。滅茶苦茶楽しかった。私だけじゃなくてロンにも気を使ってくれて、ありがと♪」
まだエンジンの掛かっていない車の中で、そう言って江角君に抱きつくと、その大きな腕が私を包み込んでくれた。
顔を上げ江角君の瞳を見上げて、小さな声でもう一度「ありがとう」と言うと「こちらこそ、ありがとう」と優しい笑顔で返され、嬉しくてそして恥ずかしくて、思いっきりその大きな胸の中に顔を埋めた。
江角君が優しく髪を撫でてくれるのが気持ちいい。
フッと顔を上げると、暖かな手が私の頬に添えられて私は目を瞑り受け入れた。





