春の海㉑
片付けが終わって、リビングで寛いでいるロンのところに行く。
「おかあさん、ありがとう」
ロンを見てくれて、そしてブラッシングしてくれていたお母さんにお礼を言う。
広げられた新聞紙の上には、スリッカーブラシで集められた毛が、縫いぐるみのお人形さんに詰められるくらい沢山有った。
「だいぶ乾いた?」
「もう、すっかり」
「どれどれ……」
触ろうとすると、ロンの方も体が乾いている事を証明するように、大きく仰向けになり乾きにくい脇や後ろ足を広げて見せてくれる。
半乾きは、良くない。
特に、冬場では。
ロンの体をチェックして、もう充分乾いたことを確認すると、出来上がったばかりのフカフカに飛びついた。
シャンプーとリンスのかかった体に、ストーブで温めていたから、この上もなく気持ちよくて、まるで暖房機能付きの動く大型縫いぐるみ。
しかもペロペロのサービス機能付き。
これだけ綺麗にしたら、車に乗っても恥ずかしくないだろう。
そして、次はお口のケア。
歯磨きの習慣は、一歳未満の時に付けておく必要がある。
ロンの場合、一歳を過ぎて我が家に来たのだけれど、その前から鶴岡部長の病院で躾けられていたから、とても楽。
歯磨きを取って来て見せると、嫌がらずに歯を見せてくれる。
奥歯も嫌がらずに、大きく口を開けてくれる。
大きな犬歯はあるものの、全体的には優しそうな歯に思える。
ガブっと、本気で咥えたら、私の太ももくらいは平気で齧りそうなくらい凄い。
なのに、絶対噛んだりしなくて、こうして私の手をペロペロと舐めてくれる。
明日のドライブが楽しみだけど、実は不安もある。
それは、やっぱり江角君と滝沢さんのこと。
あの日、一緒に車でどこかへ行き、私がインフルエンザで休んでいるときは一緒に学食で仲良く食べて仲良く帰り、そして私が治るのと入れ替わりに二人共インフルエンザにかかるなんて偶然にしては出来過ぎている。
もしかしたら明日のデートは、別れを告げられる最後のデートになるかも知れない。
ロンと私を後部座席に乗せて、助手席には滝沢さん。
もしも、そうなったら……。
「あーっ!もう嫌々!」
私ったら、なに変な事考えているんだろう。
もー自分が嫌になるくらい、むしゃくしゃして、ロンと散歩に出た。
大きな月。
今夜はスーパームーンなのかしら?
だとしたら、いいえ、兎に角お願いしておこう。
疑いなく、人と接して行けることを。





