春の海⑯
四日目。
熱が冷めると、風邪をひく前よりも体調が良くて、そう“元気を持て余している患者”という感じ。
もうインフルエンザには掛からないという、気分的な余裕がそうさせるのかも知れない。
でも大学にはインフルエンザで休むことを伝えてあるので、行けない。
早くみんなに会いたい。
大学に行って、江角君とお話しがしたい。
でも、その肝心の江角君は、何故かつれない。
前は、私の大好きなレモン牛乳をコッソリ届けに来てくれたこともあったのに、一日一本のメールをくれるだけ。
それも、大丈夫か?という、ありきたりの病気見舞いの内容だけ。
いったいどうしたのだろう。
滝沢さんのことを好きになって、もう私のことなんて忘れかけているのだろうか?
合えない不安が、変な懐疑心を揺り起こす。
だけどそれは仕方がない事。
誰も人の心を縛り付けることは出来ないから。
もしも江角君が私よりも滝沢さんのことを好きになったとしても、それを縛ることはできない。
無理に自分の方に向けようとしたって、それは惨めなだけ。
仮に、私に落ち度がなかったとしても、選ぶ権利は江角君が握っている。
私に、その江角君の自由を奪うことは許されない。
私に出来ること――。
それは、江角君に相応しい自分で居ること。
そして、江角君を信じること。
ガタガタと音がする。
ドアがこじ開けられてロンが入って来て、私のベッドに上がり込む。
“もう、いいのかな?”
そう思って、私もそれを許す。
考えてみると、この様にして自分でドアを開け里ことができるのに、なぜ今までそうしなかったのだろう?
そして何故いまこうして入って来たのだろう?
昔聞いた話。
犬には、人の病気や体調が分かるという話し。
渋谷の待ち合わせ場所として有名な場所に立っている忠犬ハチ公は、飼い主である大学教授の容態を知り、教授が学校で倒れるその日、出勤しようとする教授を妨げるようにして吠えた。
そしてロンも、このドアの向こうで屹度インフルエンザで寝ている私のことを気遣ってくれていたに違いない。
いま、ロンが入って来たということは、本当に私が元気になったということなのだろう。
そう思うと、私は嬉しくてロンを撫でた。
そして、もう一つ。
ロン。
開けたドアは閉めて。





