春の海⑪
次の日、いつもの電車、そしていつものホームに江角君が立っていた。
その姿を捉えると、怖くなり、足が竦み立ち止まってしまった。
昨日の事を思い出す。
滝沢さんの運転する車に乗った江角君の横顔が、私の脳裏を通り抜けて行く。
あれから二人で何処に言ったのだろう?
江角君は、私に急用だとメールをしてきたけれど、本当は……
私は知らず知らずのうちに、江角君に見つからないようにホームの後ろ側の人影に隠れるようにして、様子をうかがっていた。
ホームに立つ江角君は、なんだか携帯が気になるようで、何度もその画面を見ている。
表情は、いつもより少し険しい感じ。
そしてメールを打ちだした。
いつもより来るのが遅い私宛?
それとも違う誰か――。
江角君の打ち終わったメールは、私の携帯を鳴らさない。
残念に思っていると、しばらくして返信が来たみたいで、それを読む江角君の表情にホッとしたような表情が浮かぶ。
“滝沢さんに打っているのだろうか?”
いままで、独り占めした自信が根元から崩れて行く。
「千春、おはよー! なにしているの、そんな所で?」
里沙ちゃんに声を掛けられて驚いた。
里沙ちゃんの後ろには伊藤君とコバ、それに美緒もいる。
「おはよー! 友達から、急に電話が入って……」
「そっか。じゃ、行こっ!」
里沙ちゃんに誘われて、いつもの所まで付いて行く。
江角君の姿が、だんだん近付いてくる。
江角君が、私たちに気が付いて、こっちを向く。
私は、とっさに最後尾にいるコバの後ろに隠れた。
いつもの様子を、いつもと違う場所で、いつもと違う気持ちで見ていた。





