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春の海⑩

 いつも不思議に思うことがある。

 それは、こうしてロンと遊んでいると、どんな嫌なことも忘れてしまいそうになること。

 愚痴を言うわけでもなく、かといって話を聞いてくれるわけでもない。

 お互いに触れあっているだけなのに。

 ロンのクリクリした瞳が私を捉えていた。

 透き通るような、穢れの無い瞳。

 ロンは何を思っているのだろう?

 そして、なにを言いたいのだろう?


 言葉は無い。


 ただ、何かを訴えかけている事だけは分かる。

 元気を出せ。

 気にするな。

 僕がついているじゃないか。

 そして、そのどれとも違う事なのかも知れなくて、ただ単に“おやつが欲しい”なのかも知れない。

 私が、そう思った時、ロンが舌を出して笑った。


“まさかね……”


 でも目の輝きが、殺気とはまるで違う期待に満ち溢れた光を帯びている。

 ロンから手を離し、立つとロンも立った。

 歩くと、私を見上げながら、嬉しそうに着いて来る。


“これは確実に、おやつモードだ”


 結局、ロンは私をおとして、まんまとおやつをせしめた。

 しばらくして、お母さんが、そしてお父さんが帰って来て夕食を摂る。

 ロンも自分の夕食を食べて、私たちが食べ終わるのを、くつろぎながら見ている。

 食事を済ませて、二階に上がって1時間勉強をしてからお風呂に行くと、ロンも私に着いてくる。

 服を脱いで下着姿になったとき、ロンに聞いてみた。


「ねえ、私って魅力ないかしら?」


 ロンは、なんにも言わないけれど、目がキラキラと輝き嬉しそうに見上げてくれる。

 その表情から、言葉に出さなくても答えは直ぐに分かる。

 いつもロンは私の見方。

 だから、もう一つ聞いてみた。


「ねえ、江角君はずっと私の事だけを好きでいてくれると思う?」


 ロンは相変わらず目を輝かせながら、催促するように、お座りした腰を浮かせようとモジモジしながら、お手とお替りを繰り返してくる。

 その仕草はテレビのコントで、酔ったエロおじさんが美女に「早く、こっちにおいで」と呼ぶ仕草に似ていた。

 そう思ってよく見ると、肝心の男の子の部分が伸びていて、目は輝いていると言うよりイッテいると感じだった。


“だめだ、ロンが壊れてしまった……”

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