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春の海⑦

「ねぇ千春、聞いている?」


 真柴さんの声に我に返る。


「みんな千春と昼食一緒に食べるの楽しみにしていたんだから、もっと話そうよ!」


 伊沢さんが、そう言ってくれて、横溝さんも「そうそうお話しましょ」と言ってくれる。

 みんなに囲まれて、その雰囲気に合わせるように私も楽く話をしているけれど、話しが弾めば弾むほど気持ちは江角君のほうに行ってしまう。

 話の合間に何度か見た江角君は、私と違って楽しそうに話をしていて、その中には女の人も居た。

 やはり江角君はカッコイイから、女の子が集まって来る。

 結構可愛い女の子もいて、その中で一際綺麗な女の子が江角君の隣で楽しそうに話し掛けていて、江角君も時折楽しそうに笑っている。


「ねぇ、どうしたの?」


 真柴さんが私の様子に気が付いて、江角君の方を見る。


「ううん、何でもない」


「ははぁ~ん、やきもちね」


「ちっ、違います。ただボーっとしていただけです」


 私は、やきもちなんか焼いていない。

 本当に、江角君が楽しそうにしているのを、羨ましく思って見ていただけなのに、真柴さんたら勝手に決めつけちゃって嫌になっちゃう。


「ふぅ~ん」


 そう言って、真柴さんは江角君の方をマジマジと見て、間を置く。

 私は、その間が一体何を意味するのか気になってしょうがない。

 でも、真柴さんは、それについて何も触れることはなく「まあ、あんなカッコイイ彼氏が居たら、それは運命と思って諦めなさい」と、そう言って私の肩をペシっと叩いた。


 昼食が終わると、私たちはクラス単位の授業だったので、そのまま教室に移動する。

 席を離れる時、江角君の方を見ると、あの綺麗な女の子が江角君の腕を掴んで立っていた。

 身長は意外に高くて、170センチはゆうに有りそうで、こうして立つと江角君とよく釣り合う。

 茶色に染められたショートボブの髪形が大人っぽくて、それとは反対によく動く大きな瞳が子供っぽくてアンバランスでコケティッシュな雰囲気を漂わせている。

 そして、その大きな瞳が私を捉えた。

 まるでレーザービームを照射されたように、合わせた目から衝撃波が伝わり、心臓が破裂してしまいそうなくらいドキッとした。


“だれ?”


 その視線からは、私でも分かるほどの強い敵意のようなものが感じられた。

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