春の海⑤
動物も人も、生きて行くには成長して行かなければならない。
私たちが子供のままで居られたならば、今の私のように江角君にキスをしてもらって喜んでいればそれで良いだろう。
でも時を止めたままでは、生きて行けないし前にも進めない。
お母さんが前に進んでくれたから、今この私がある。
ロンのお母さんが前に進んでくれたから、このドアの向こうにロンが居る。
私が前に進めば――。
浴室のドアに手を掛け、それを再び開く。
ロンが裸の私を見上げる。
私もロンを見つめ返す。
ロンは少し照れたのか、時折目を離しながら私を見る。
私はロンに見られていても平気。
少し恥ずかしくてドキドキするのは、屹度ロンが好きだからだと思う。
そして――。
私は江角君の前に、この体を晒すことが出来るのだろうか?
キスだけじゃない、その先を求められたとしたときに。
私は許すのだろうか……。
スキーに行った夜の事を思い出す。
夜の雪の森で、重なった体。
私の胸に触れる江角君の手。
それまで求めるようにキスを受け入れていたのに、胸の上に乗せられた手を拒んだ私。
怖かった。
二人の仲が、時に逆らわず進むのならば、それは避けては通れない道なのだろうか?
「ワン!」とロンが鳴き、遠くに行きかけていた思いが呼び戻される。
そうそう、自分の体を拭かなければ、折角お風呂で温まった体が冷えてしまう。
そして、ロンも。
慌てて体を拭いて、ジャージに着替える。
それからロンの体をブラッシングしながらドライヤーを掛けてやる。
お互いが綺麗になったところで、脱衣場の床にコロコロを掛けて出た。
一旦部屋に上がってダウンジャンバーを纏い、首にマフラーを撒き手袋を着ける。
玄関に降りてエチケットセットを持ち、ロンの首輪にリードを掛け、ドアを開く。
いってきますと、お母さんにロンの散歩に行くことを告げ外に出る。
小躍りするように喜ぶロン。
君はいつまでも子供の心を忘れない。
いつものベンチに腰掛けて、夜空を眺める。
オリオン座が綺麗に見え、その隣にはプロキオン、その下にシリウス。
江角君に教えてもらったことをロンに教えてあげると、珍しくロンは私の指さす方向を真剣な眼差してまるで子供のように見上げていた。
「いつか一緒に行こうね、ロン」
私の声に、ロンが「クウ~ン」と喉を鳴らした。





