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春の海④

 肉体的にも精神的にも疲れ切った。

 こういう時は、お風呂に限る。

 先ず、台所に行って牛乳を洗い置きしておいた炭酸飲料用のペットボトルに移し、ハチミツを少し入れてキャップをする。

 ミルクの大好きなロンは、好奇の表情で私の動作を隈なく見上げてお風呂まで付いて来る。

 でも冬の、特に夜は一緒に入れてあげられないの。

 ロンのような毛の長い中型犬だと、お風呂の温度は35度程度。

 この温度のお風呂では、私が風邪をひいてしまう。

 それに、お風呂から上がった体は直ぐに乾かしてあげないと、今度はロンが風邪をひく。

 夏場でも冬場でも、普通は暖かい日中の昼間。

 意外と毛の奥の方まで乾かすのは時間が掛かる。

 冬の夜ともなると、ドライヤーで1時間くらい掛かってしまう。

 だから、折角お風呂場まで付いてきたロンだけど。お風呂はオアズケ。

 そのかわり、私の話し相手に任命してあげます。

 私がシャワーを浴びて、体や髪を綺麗に洗って終わるまでは脱衣場で見張り役の兵隊さん。

 そしてお風呂の床に着いたお湯を拭いて、湯船に浸かってからドアを開けて相談役としてのお仕事を与えます。

 今日あった色んな事をロンに話すと、お湯の暖かさもあってスーッと疲れが逃げて行く。

 ロンはズット話をする私の目を見てくれているけれど、時々話の切れ間に私の顔から目を離して、湯船に浮かぶ白い物に興味を惹かれるみたい。


「駄目よ!」


 そう私が言うと、直ぐに私の顔に目を戻す。

 ミルクが大好きな犬も多いと思うけれど、沢山あげて良いものではない。

 たまに少量、ご褒美としてあげる程度にしておかないと下痢をする。

 私は浮かべておいたペットボトルをサッと水道水で洗って、キャップを開けて飲む。


「くーっ、美味い!」


 私は、まるでお酒に酔った人みたいに、お正月中に来た迷惑なお客さんの話など愚痴をロンに話すと、精神的ストレスもスーっと引いて行く。

 そしてお風呂から上がる前に、最後に少し残しておいたミルクを手で作った器に盛ってあげた。

 お風呂のドアを開けて、ロンには脱衣場に出てもらい、湯船から出る。

 脱衣場に手を伸ばしてバスタオルを取って、まず頭から顔を拭く。

 次に首筋から肩を拭こうと思った時、ロンが嬉しそうに見上げている。


「もーエッチィ!」


 ロンが驚くから大声は出さなかったけれど、そう言って浴室のドアを閉めた。

 夏には時々だけど、一緒にお風呂に入る事もあり、いままで平気なはずだったのに何だかドキドキする。

 不意に、あの夏の九十九里浜で高橋さんの言った言葉が浮かぶ。


“私、ねんねじゃありませんから――”


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