春の海③
元日こそ、ゆっくりできたものの次の日からはバイトに出た。
クリスマスとお正月を休ませてもらった私たち三人は、これから一週間みっちりシフト入り。
特に二日三日は、これでもかと言うくらい人が押し寄せて、私はもちろんのこと、里沙ちゃんも京子ちゃんもヘトヘトになった。
サト店と村越さんなんか、この忙しい中イブから五日まで休みなしで働いているのに余裕の表情。
さすがに社員さんは凄い。
六日が過ぎ、七日になるとさすがに社会人の人たちは仕事が始まったのか、家族連れがパタリと少なくなり、今日は村越さんも休みを取った。
昨日までの忙しさが嘘のように暇な一日。
サト店も暇を持て余すのか、京子ちゃんや私を見て「今度、恋人を連れてこいよー」とか「立木(里沙ちゃん)ますます色っぽくなったなー」とかセクハラ発言を連発する。
お返しに「店長も今度彼女連れて来て下さいね」と言うと「バカヤロー、そんじょそこらに俺の彼女になれるような女が、そうそう居てたまるか!」と怒られた。
里沙ちゃんが「サト店の理想の女性って、どんな人ですか?」って聞くと、国民的宇宙戦艦アニメのヒロインの女性隊員の名前を言ったものだから、一同引いてしまった。
怖そうな顔をして、実はアニオタだったのだ。
一緒にカウンターに並んでいた京子ちゃんが「そりゃあ30にもなっても、結婚出来ないわけだ」と小さな声で私に囁くと、厨房の奥から「29だ、バカヤロー!」と返事が飛んで来た。
いわゆる地獄耳と言うやつ。
そう言えば24歳で店長代理の村越さんは、今年結婚する。
そしてシフトリーダーの小林さんも、今年大学を卒業すると同時に結婚することが決まっているから、この手の話はサト店から振られても返さない方が身のためだ。
連続シフト入りの最終日は、小学校から高校まで学校が始まり、しかも半ドンということで午後から考える暇もない程の大忙し。
みんな、お年玉をもらってお財布の中身に余裕があるものだから、いつも余り出ないサイドメニューやアイスもののメニューもジャンジャン注文してきて、てんやわんや。
丁度ひる番だったから、学生たちが引けた夜七時にシフトが開けたけれど、里沙ちゃんも京子ちゃんも私も、もうクタクタで喫茶店にも寄らずに帰宅した。
家に帰り、ドアを開けるといつものようにロンがお出迎えしてくれる。
これだけでも癒されて疲れが取れるのに、玄関でバタンキューした私に優しく寄り添ってくれるの。
もー、君なしでは生きていけないよ。





