春の海①
「新年、明けまして、おめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします」
お正月に、兄と美樹さんが新年の挨拶に家に来てくれた。
社会人になって出張ばかりだったけれど、去年までは家にいて一緒にお母さん手作りのお節料理を食べていたのに、なんだか遠く離れてしまったようで嬉しい中にホンノ少しだけ寂しい気がして新年の挨拶を聞いていた。
「千春ちゃんも今年で二十歳ね。二十歳になったら一緒にお酒飲みましょう。あれ、でももう飲んでいる?」
私が、お神酒を飲んでいるのを見て、美樹さんが笑う。
「あっ、これノンアルコールの甘酒です」と、笑って返す。
「あーっ、そうなんだ。私はてっきり濁り酒かなって思って、千春ちゃん通なんだなって思っちゃった」と、また笑う。
「この子、駿(兄)と違って、お酒全然飲めないんですよ」今度はお母さんが割って入る。
「全然飲めない事なんてないよ。少しくらいなら飲めるもの」
何となく、飲めない事を子ども扱いされたみたいで、少しむきになって言い返した。
「あら、そうだったわね。中学の時、風邪をひいた時に生薬のお酒をキャップのメモリ分だけ飲んだわね」と昔の事を持ち出さしてきて、私はマズイと思った。
成り行きなのか、それとも興味を持たれたのか美樹さんが、それで?と、話の先を聞いて来るものだから、お母さんたら得意になって「茹でダコみたいに真っ赤になって、余計熱が出で寝込んじゃったのよ」と私の失敗談を披露する。
「練習して、お父さんやお母さんみたいに、飲めるようになるんだから」と私がムキになって言い返すと、美樹さんから「だめよ。そんな練習なんかしたら」と優しい顔で諭された。
「お酒が飲めないなら、飲めないほうが良いじゃない。飲めない女の子って可愛らしくて好きだよ私は。飲めないのに無理して飲んじゃうとコアラになっちゃうよ」
「コアラ?」
「千春ちゃんは、コアラの大好きな食べ物ってなんだか知っている?」
「ユーカリの葉でしょ」
コアラがユーカリの葉を好んで食べているのは、皆が知っていることなのに、なんで聞くのだろうと思って答えると、違うと言われ驚いた。
「コアラの食べるユーカリの葉には、青酸という毒が含まれていて、それは他の生き物たちにとっても危険な成分だから誰も食べようとはしない。そして鋭い牙も、速く走る事も、飛ぶことも出来ないコアラたちは生存競争に勝つことが出来なくて、誰も食べないユーカリの葉を食べる事で生き残る道を選んだわけ」
話がここまで進んだとき、コアラのイメージを聞かれたので「木につかまってジッとしていたり、寝ているイメージ」と答えると、美樹さんは「そうよね」と言って話を続けた。
「ユーカリの葉を食べたコアラにも、もちろん毒は毒。それを腸内で発酵させて解毒して栄養を摂取しているのだけど、発酵するまでに摂取してしまう毒や少ない栄養のために一日20時間くらい動くことが出来なくて寝ているのよ」
「そして、お酒に含まれるアルコールも人間にとっては毒。昔、千春ちゃんが生薬のお酒を飲んで寝込んじゃったのは、むしろ正常な反応なの。だから無理して飲んじゃ駄目よ」
なるほど、それでお酒を飲んだお父さんはいつもグーグーと鼾をかいて寝てしまうんだなと思った。





