ホワイトクリスマス⑮
来た時と同じ林道。
今度は緩い下りなので、来た時より少し楽。
目の前に夜空をオリオンが輝き、私たちの行く手を示す。
月明かりに照らされた粉雪たちは、まるで妖精の子供のように、私の傍に寄って来て、そっと囁く。
森に入って暫くして、私は江角君に声を掛けて止まった。
「江角君、少し先に行っていて。直ぐ追いつくから」
「どうした?」
「うん。靴の中に何か入ったみたい」
「痛い?」
「ううん」
「肩、貸そうか?」
「大丈夫。心配ないから先に行ってて」
いつもと違う私の反応に、少しだけ戸惑いを見せたものの、江角君はゆっくりと歩き出した。
私は俯いて、手を靴に……ではなく、地面に着けて雪を触る。
「ゴメ~ン。江角君、やっぱり足が痛いみたいだからオンブして」
振り返った江角君は、了解とばかりに後ろ向きになって、おぶり易いように腰を低く突き出す。
そして、私はそこに向かって走る。
私の元気な足音に気が付いた江角君が、不思議そうな顔で後ろを向いた。
私は、江角君の横を追い抜きざま、その広い背中にさっき作ったばかりの雪玉を投げつけた。
雪玉は、見事に江角君の肩口に辺り、そこで粉雪に戻り江角君の顔を擽って行く。
驚いた顔の横を「当たりぃー!」と陽気な声で追い抜いた。
「あ~っ。騙されたぁ~」
珍しく、素っ頓狂な声を上げる江角君に向かって私は小さな子供のように〽鬼さんこちら。手の鳴る方へと囃し立てて逃げる。
スキーは苦手だけど、走るのは意外と得意。
後ろから追いかけてくる江角君と、投げてくる雪玉を上手に避けながら、森の中を縦横無尽に駆ける。
時折、顔の横の木に雪玉が当たり炸裂する。
そんな時、決まって私は「キャー」と悲鳴を上げる。
「待てよ、鮎沢!お前走るの早すぎ!」
なかなか追いつけない江角君が叫んだ。
「いやーっ!」と私は笑いながら返す。
そんなやり取りを数回繰り返したとき、ドスンと何かが倒れたような鈍い音が聞こえた。
何だろうと思って、脚を止めると、追って来ているはずの江角君の足音が聞こえない。
「江角君……」
声を掛けても、返事が返ってこない。
「えすみくん?」
引き返しながら、もう一度名前を呼んだけど、返事がない。
心配で、心臓がドキドキと大きな鼓動を立てて泣く。
「えす――!!」
次にその名前を呼ぼうとした瞬間、ガサガサと枯草の鳴る音が聞こえたかと思う間もなく、暗い森から更に黒い大きな影が襲ってきた。





