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ホワイトクリスマス⑧

 伊藤君は、そこまで言うと「いっけねぇー。用事忘れていた!」と慌てて、私に缶コーヒー代金を手渡すと「ゴメン!腑に落ちない点があれば、また説明するから!」と言って、その場から逃げるように走り去っていった。

 走りながら、大きく高く手を振って視界から消える。

 伊藤君の話を思い出す。

 結局、コバが誰かを好きだったことや、それに関連して何かをしたいと言うことが分かっただけだったけれど、何故か心のモヤモヤは晴れた。

“悪意ではなく、全てが善意で回っている”と思った。

 伊藤君が帰って暫くして、江角君がジュースとコーヒーを買って戻ってきた。


「伊藤は?」


「用事を忘れていたと言って、慌てて帰ったよ。ハイこれ」


 私は、伊藤君から預かったコーヒー代と、自分のジュース代を手渡すと「この寒い中、ミカンジュースは飲まないだろ」と半分を返されて、代わりに暖かいポタージュスープを渡された。


「知っていたの?」


「どっち?」


「私が、伊藤君に聞きたい話があったこと」


「なんとなくねっ。だって、いつもの鮎沢だったら、先ず自分から立って皆のジュースを買いに走るだろ」


 いつもながら、行動パターンを読まれてしまう自分が情けない。

 そして、それに気が付いて優しくしてくれる江角君が愛おしい。

 それから、ベンチで暖かいポタージュスープを飲みながら、伊藤君から聞いた話をした。


「今回は、コバと青山さん(京子ちゃん)の好意に甘えよう」


 江角君の言ってくれた言葉に、素直に「うん」と答えた。


 11月下旬の夕暮れ時。

 ポタージュスープと、二人の好意、それに江角君の優しさが暖かく心に染みる。


 家に帰って、ロンにスキーの事を教えてあげると、目をキラキラさせて喜んでくれた。

 屹度君には“スキー”と言う言葉は分かっていないと思う。

 だけど、私の嬉しいという気持ちを、素直に喜んでくれるその暖かい心が好き。

 夜、江角君から電話があって伊藤君のことを話してくれた。

 江角君の話によると、伊藤君はスキーに行くことを言い出しにくい私のために、来てくれたのではないかと言っていた。

 たしかに、伊藤君のおかげでスキーに行く話は出来たけれど、なんで伊藤君がそこまでしてくれるのだろう?

 まあ、理由は今度会った時にでも聞こう。

 そのあと、コバと京子ちゃんに電話して“ありがとう”という気持ちを伝えて寝た。

 窓の外では、本格的な冬を告げる北風がヒューヒューと鳴り、時折窓を叩いて行くけれど、私の心はまるで春のように暖かかった。

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