ホワイトクリスマス⑦
「はなしを、話を聞かせて下さい」
自分の心を落ち着かせるように、抑えた声で私は伊藤君にそう言った。
自分の事なんて、たとえ揶揄われたり酷い事を言われたとしても我慢する。
それは、自分自身に幾らか非のある事だと思うから。
でも、私の大切な人がそんな目に合わされるのは許せない。
おそらくこの時、私は“私史上”最も怒っていると自分で思った。
「ゴメン。揶揄うつもりじゃなかったんだ。だから、こうして来た」
伊藤君は、少し間をおいてから、話を続けた。
「実は、夏休みに皆で海水浴に言っただろ、あの時コバに告白されて……」
男の子同士で、なにを告白されたのは分からなかったけれど、屹度重要なことだと思った。
それから伊藤君は、事の成り行きを始めから話してくれた。
事の発端は、伊藤君とコバが大学の帰りに茂山さんのお店に寄ったところから始まる。
二人でコーヒーを飲んでいたところに、足立先輩と京子ちゃんもお店に来て里沙ちゃんと五人で話していた時、足立先輩が皆でスキーに行かないかと誘ってきた。
里沙ちゃんは直ぐに行きたいと言い出して、行くならクリスマスが良いと、女子三人が盛り上がる。もちろん伊藤君もコバも行くことには賛成して、茂山さんも行っておいでと優しく言ってくれ、皆で何処に行こうか話を始めた。
里沙ちゃんと足立先輩が、千春も外せないと言い出して、そうなるとロンも泊まれるところを探さないといけないし、江角君も外せないと話が盛り上がった途端、急にコバが言い出した。
“茂山さんも行くべきだと”
たしかに茂山さんも、行ければ行きたいに違いないし、それは里沙ちゃんも同じ。
しかし、そうすると折角繁盛して来ているお店が、まわらなくなる。
茂山さんはコバの申し出に、感謝しながらも断り、でもどうせ行くのなら、独身最後の思い出になるようにクリスマスに行った方が好いと進めてくれた。
するとまた、コバが茂山さんも行くべきだと言い出した。
そして、お店は僕が手伝うとも。
茂山さんも里沙ちゃんも、最初はニコニコしながら断っていた。
だけど頑なに、茂山さんの代わりに働かせて欲しいとお願いするコバに足立先輩が理由を聞いた。
「実は、僕は……いや、僕の恋は終わったばかりです。もともと僕がその人の事を好きになったときには、既に僕なんかが入り込める隙間なんてひとつもなくて、憧れるようにただ離れて見ているだけで終わりました。失恋した後で浮かぶのは、彼女が彼に向かって見せる笑顔ばかり。そして、その笑顔は僕に見せてくれる笑顔とは全く別の物」
急に、失恋を告白し始めたコバの話を皆静かに聞いていた。
「彼女は、誰にでも優しい気持ちで接してくれた。だから好きだったし、だから辛かった。いっそのこと僕になんか相手にもしてくれなければ、敵わないと気が付いたあとでも少しは普通に暮らせたと思う。だけど彼女は、たまに僕を見かけると、まるで子供のような笑顔を見せて喜んでくれるし、僕に元気がない時には心配もしてくれる。そして僕にも沢山の気持ちをくれたのに、僕はいつもただ見ているだけだった。だから働きたい」
誰の事を好きだったのかは、言わなかった。
茂山さんは、コバの話を聞いてから「じゃあ頼むとするか」と優しくその肩を叩く。
すると今度は、京子ちゃんもコバだけでは茂山さんの半分しか出来ないだろうと、自分も働くと言い出した。
「私も、好きな人の役に立ちたいから」と。
***参考話紹介***
*コバが伊藤君に告白した海水浴=青い夏の日⑦
*伊藤君が千春に告白=桜の季節に向けて⑧⑨





