ホワイトクリスマス④
「よう!ご両人」
甲本君の口マネをして、やって来たのは伊藤君。
「やあ!」
「どうしたの?」
Welcomeな江角君と、私の掛けた言葉に温度差があることに気が付いた。
「知っていた?」
「うん。教室を出るときに、寄るってメールが来たので、ここを教えておいた」
江角君にメールした伊藤君が、わざわざ立ち寄ってまで会いに来てくれるって、なにか重大な用件でもあるのだろうか?
そう思いながら、近づいて来るその顔を見てみると、いつもと変わらない飄々とした顔が私を見ていた。
“えっ!ひょっとして私に用?”
そう思った瞬間、ウィンクされて焦る。
伊藤君は江角君の隣に座ると「クリスマスの事なんだけど、なんか予定入っている?」と聞いた。
“マズイ!”この展開だと、もしまだ予定がなかったとしたら、伊藤君に取られてしまう。
焦ってはみたけれど人の会話に割り込むのは失礼だし、それにそんな勇気もない私は“江角君にクリスマスの予定がなくて、かつ伊藤君の誘いにも乗らない“という都合のいい返事を望むばかり。
心配しながら二人の会話を聞くしかない自分が悲しい。
「えっと……まだないけど、なにかあるの?」
“ナイス江角君!”
直ぐに返事を返さずに、まず用件を聞く。さすが江角君!
「実は、クリスマスに泊まりでスキーに行こうと思っているんだけど、一緒に行ってくれない?江角スキー出来るだろ。俺初心者だから心細くて」
クリスマスにスキーって、思いっきり私が言い出せなかった事と被っているし、伊藤君たら珍しく下手に出て困っている人に優しい江角君の優しい心に付け込んでいる。
“わっ、わっ、わっ――どうしよう!?”
「鮎沢も一緒に行けるなら、いいよ」
“ほらぁ~、断れない”
「もちろん!」
「鮎沢。行く?」
江角君が、私と一緒なら行ってもいいと言ってくれて嬉しかった。
足立先輩に誘われていなければ、屹度“行きたい!”と、即答した事だろう。
ここは“行かない”と答えるべきだろうけど、折角“私も一緒でいい”と親切に言ってくれた伊藤君に向かって、子供みたいに“行かない”と断るのはいけない。
一応伊藤君のおかげで、江角君がまだクリスマスの予定が入っていないことは分かったので、ここは行けない理由を正直に話して、江角君をスキーに誘ういい機会かもしれない。
でも、それだと同じスキーなのに伊藤君の誘いと、後から言い出した私の誘いの間で江角君を困らせてしまう。
江角君に相談せずに、足立先輩の誘いを直ぐに受けてしまった軽率さを後悔した。





