恋人たちの聖地⑦
吹奏楽部のバスを見送ってから、私たちはいったん解散して、昼から出発した。
江角君の車に一緒に乗るはずだったコバは、急用ができたと言うことで、遅い出発になる里沙ちゃん達と茂山さんの車で行くことになった。
「ねえ、私たちも遅出にする?」
江角君と二人きりだと、名古屋に着いた時に皆に揶揄われそうなので、聴いてみると「浜松湖は見ないの?」と聞き返された。
そう、私たちが早出するのは、私が浜松湖に行ってみたいなんて我儘を言ったから。
「いいんじゃない。浜松湖くらい見に行っても、どうせ今日は移動だけだし、それにホテルの部屋は別々なんだから」
なんとなく、ホテルの部屋が別々と言われて、寂しい気がした。
保育園の時のお昼寝や、幼稚園のお泊りなんかはクラス単位だったのに、いつから男女別々でないといけなくなったのだろう。
小学校の修学旅行では、男女別々でも何とも思わなかったのに、今は皆と一緒に居たいなんておかしいのかな……。
玄関先に出て来ていたロンを抱き寄せる。
“ゴメンね。今日は一緒に連れて行けなくて”
部員たちの手前、遊び半分でない事を強調したいばかりにロンを連れて行かないと自分で言っておきながら、いざ出発となると寂しくて泣き出しそうになる。
ロンの暖かい体温と、フワフワの柔らかい毛に包まれていると、このまま何もかも捨ててズットこのままで居たいとさえ思えてくる。
別れを惜しむ私を、江角君は何も言わずに優しく待っていてくれる。
“連れて行けば”と言われると私が困る事を知っているから。
そしてロンも、決してドアの開いている車に近づこうとしない。
ただ撫でられるために、私に頭を押し付けてくるだけ。しかもグイグイと。
“行けと言っているの?”
ロンに聞いても、何も答えてはくれない。
ただ、いつもより強く頭を押し付けてくるまま。
玄関の中から、こちらを見ているお母さんが「気を付けて行ってきなさい」と声を掛けると、ロンは私の傍を離れてお母さんの所に行き、それを合図に私たちは車に乗り込む。
車の助手席の窓を開け、ロンとお母さんに「行ってきます」と言う。
ロンを見ると、ロンも私の事をジッと見ていた。
「ロン、行ってくるね!お利口にしているのよ」
私がそう言うと、ロンは「ワン」と一回だけ吠えて返事をしてくれた。
「出すよ」
江角君の言葉に、コクンと首を縦に振るのがやっとだった。
エンジンの音が大きくなり、ゆっくりと車が動き出す。
ロンは、お母さんの隣にお利口にお座りしたまま、遠ざかる車を見ていた。





