真夏のクリスマス⑧
「いや、俺の店じゃなくて俺の親父の店なんだ」
そう言えば、さっき実家だと言っていたことを思い出してカウンターのほうを見ると目の前の茂山さんより大分スリムな中年の男性がこっちを見ていて、目が合うと会釈をされたので慌てて頭を下げた。
「ほらほら、こんなところにお客さんを立たせてないで早くお通ししないと!」
横からかけられた声に振り向くと、背は高くないけれど頑丈そうな体つきの小母さんがいた。
私が挨拶すると小母さんはニッコリ微笑み
「あなたたちが噂のカップルね。会えて嬉しいわ」
と言いながらロンの頭を優しく撫でてくれた。
親しみやすい感じの女性は、誰から見ても茂山さんのお母さんに違いなかった。
窓際のテラス席に通された。テラスの下には芝生の敷き詰められたドッグランになっていて、そこで飼い主がゆったりと珈琲を飲みながら寛いでいる間、犬は自由気ままに過ごしたりもできるようになっている。
丁度今は小学4・5年くらいの女の子がシェルティーと遊んでいた。
メニューは人間用とペット用があり、里沙ちゃんと私はケーキセットをたのんで、ロンは何がいいかメニューを見せながら様子を確認すると。
ペット用ケーキセットの写真を見せたときに、私と目を合わせたので、それにすることにした。
直ぐに茂山さんがオーダーを取りに来た。
里沙ちゃんが「私と千春はケーキセットで……」と言ったあと
「三人ともケーキセットです」と言い直して私のほうに振り向いて
「これでいいよね!」と笑う。
私は里沙ちゃんの気遣いが嬉しくて涙が出そうになるのを堪えながら満面の笑みで
「うん。有難う!」と答えた。
里沙ちゃんは茂山さんにオーダーを伝えるときに、私たちの二人の分とロンのペット用を分けて言いかけた。
それはごく当たり前のことだと思う。でも、もし私(千春)だったら普通に「3人前」って言うんだろうと気が付いてくれて言い直してくれた。
確かに他人から見れば、人間と犬だけど、私から見るとロンは家族同然じゃなくて”家族”なのだ。
そのことを気遣ってくれた里沙ちゃんの気持ちが嬉しかった。
私たち3人が少しだけお喋りしながらドッグランで遊んでいる子供たちを見ている間に、茂山さんが3人分のケーキセットを持ってきてくれた。
なかでもロンの分は台が付いていて食べやすいように工夫されていた。
茂山さんのお母さんに頼んで食べる前に茂山さんを含めた4人で写真を撮ってもらった。
美樹さんに送るための写真だけど、茂山さんのお店に私とロンが行ったなんて、屹度ビックリするに違いなくって今からワクワクする。





