恋人たちの聖地③
そう言えば、気が付いたことがある。
足立先輩は、なぜ留学しないのだろうか?
家は裕福だから、経済的な問題は何もないはず。
もしかしたら、私と同じ理由かと思って聞いてみると、違うと言われた。
「私はね、ミッキーの死と一緒に失ってしまった時間をラッキーと一緒に取り戻すの。だって再来年は就職でしょ。そうしたら何処に飛ばされるか分からないし、地元に居られたとしても、今より自由に過ごせるはずないもの」
たしかにそうだ。
今は学生だから、時間は沢山あるけれど、就職すると地元には居られないかも知れない。
地元に就職しても、お父さんみたいに残業とか休日出勤とかでクタクタになりそうだし、兄のように海外に出張させられるかも分からない。
高校の修学旅行の時のように、ロンに何かあっても休むわけにはいかないのだ。
四年後の就職している自分を考えると、怖い気持ちさえしてきた。
「あっ、そういえばロンと同じ気持ちを持っている人、ひとり知っているよ」
唐突に足立先輩が言った。
就職した時の事を考えていたから“ロンと同じ気持ち”の意味がピントかなかったので「誰です?」と、聞き返してしまう。
「答えは、江角紘太朗!」
「キャー」と、心の中で悲鳴を上げると、それまでおとなしくしていたラッキーがムクッと起き上がり囃し立てる。
「もーっ!」と、強がって声を上げたけれど、車内の暗がりの中で誰にも分からないと思うけれど、私の顔は真っ赤。
足立先輩は「冗談、冗談!」と笑っていた。
***参照***
千春が高校の修学旅行をサボった件⇒(ロンと、修学旅行⑥~⑨)





