恋人たちの聖地①
幾度かの台風が風をすっかり入れ替えてしまったような十月。
今日はロンを連れて、茂山さんのお店に向かっている。
ロンも私も、ウキウキして走り出したい気持ち。
何故かというと、夏休みを利用してオーストラリアに留学していた瑞希先輩に久し振りに会えるから。
お店の前まで来ると、もう待ちきれないのかマリーの鳴き声がして、ドアを開けた途端出迎えてくれた。
「千春~久し振り~!」
「瑞希先輩。おかえりなさい!」
マリーは早速ロンに飛び掛かり、馬乗りになろうとしたり、首に噛みつこうとしたりして滅茶苦茶に甘えていて、それを見ていると何だか犬たちが羨ましく思える。
だって人間なんて、とてもこんなふうに素直に感情表現できないでしょ。
久し振りなものだから、大分ロンもマリーの好きなようにさせていたけれど、とうとう飽きてきたのかマリーを上から押さえつけて、二人のじゃれ合いも終了。
「オーストラリアは、日本よりズーっと南だから暑かっただろう」
「それ『あのオッサンの唄』やん!」
足立先輩のボケに、見事な突っ込みを入れる伊藤君。
あのオッサンの唄と言うのは、私たちが小学校でバス旅行に行ったとき年配のバスガイドさんに教えてもらった曲で、歌う人のあとについて「なんや?」と「うんうん」そして最後に「アホかいな」と関西弁で付け加えるのが斬新で面白かった。
そして足立先輩の言った部分は、オッサンが南極に行ったときに、南だから暑いだろうと思って海水パンツひとつで行った件。
しかし、私たちはあのバスガイドさんに教えてもらったから知っているけれど、学校の違う足立先輩が良く知っていたものだと感心して聞いてみると、元唄があるのだと教えてくれた。
「で、実際どうだったのゴールドコーストは?」
「南半球だから、寒かったでしょう」
足立さんに続いて、里沙ちゃんが気候の事を聞いたのが少し意外だった。なぜならこういう質問は真っ先に伊藤君がするものと思っていたから。
「温かかったですよ。春みたいな陽気で」
それから皆で、ステイ先の家の事とか、食事やバイトの事などを聞いて、話は盛り上がった。





