青い夏の日⑳
練習が終わり、吹奏楽部のメンバーより少し先に下校する。
練習中は私が木管で、江角君は金管の応援に入っていて別々だったけれど、こうして行き帰りは一緒。
二人でハンター坂の手前にあるお店でアイスを買って食べていると、ドカドカと言うバイクの音と共に甲本君がやって来て止まった。
「いょうっ!ご両人」
ご両人と言われて、恥ずかしくて江角君を見上げた私に「鮎沢、この前は、ありがとな!」と言って通り過ぎて行った。
「甲本、プロになる話断ったらしいよ」
甲本君は、あの日元テレビ局のディレクターをしていたコテージのオーナーに、ドラマーとしての実力を見初められ、プロの道を薦められた。
「良い話なのに、なんでだろう?」
「芸能事務所に入って、違う音楽性を求められるのが嫌だと言っていた。それに」
「それに?」
「今はまだ、やり終えていないことがあるからだって。それを見届けるまでは、今のまま自由でいたいんだってさ」
「屹度、吹奏楽部のことね」
「うん。それもある。」
「ほかにも、理由があるの?」
「ああ。皆で海に行った次の日に連絡があって、パートナーが出来たらしいよ。そして今は、そのパートナーが学業を終えるまで待つんだってさ」
パートナーとは屹度、高橋さんの事だ。
結局、高橋さんと甲本君は前よりズット上手くやっていけそう。
私は、その二人にお礼を言われたけれど“江角君!君が居るからこそ、このお礼が有ったのだぞ”なぁ~んて心の中で威張っていると何だかウキウキしてきちゃって、江角君の腕を強く抱きしめる。
江角君は最初驚いていたけれど、直ぐに私の頭をクシャクシャっと撫でてくれた。
それから二人で、お店の傍にあるベンチに腰掛けてお喋りしていると、部活の終わった生徒たちが「さようなら」と言って帰って行く。
その中には吹奏楽部のメンバーもいて、その子たちはたいてい手を振ってくれたり、お辞儀をしてくれたりして、私たち二人も相手の仕草を真似るように同じ動作で返す。
男友達と仲良く帰る堀江君。
加奈子さんと、さくらさん。
バイクを押す甲本君と、その隣を歩く高橋さん。
今川さんと宮崎君。
一年前には、その中に私たちも居たんだなと思うと、何だか遠い昔のように懐かしく感じて瞳が潤む。
夕焼けが出て来て、空を仰ぐ。
真っ赤な西の空と、青い頂上の空。
東の空に目を向けると、ハンター邸の病院の窓に夕日が写る。
「あっ!金の窓の付いた家があるよ!」
それはハンター邸の窓に、夕日が写っているだけのこと。
だけど今は、鈴木三重吉の童話『岡の家』の主人公のように、なぜかしら江角君と冒険がしたい気持ち。
「行ってみようか」
優しい江角君が、行ってくれる。
二人で立ち上がって、驚いたことがひとつあった。
金の窓は、あの江角君に連れられて行った部屋の窓。
私は、なんだか嬉しくて、江角君の手を思いっきり引っ張って駆けだした。
***参照***
※金色に輝くハンター邸⇒(ハンター坂②)
※江角君に連れられて行った部屋⇒(ハンター坂⑤~⑫)





