青い夏の日⑰
翌朝、目が覚めたときにはもう甲本君と高橋さんの姿はなかった。
里沙ちゃんに聞くと、早朝に一緒にバイクで帰ったと言うことと、私に“ありがとうと伝えて欲しい”と言っていたことを教えてくれた。
高橋さんが何故里沙ちゃんに言伝を頼んだか分かる。
だって里沙ちゃんは、一番私の事を分かってくれているし、その中で余計な詮索はしないから。案の定、里沙ちゃんはそれを伝えてくれたきり何も訪ねて来なかったし、普段通り私に接してくれていた。
「千春!散歩行こ」
後ろから声を掛けられて振り向くと、そこにはラッキーのリードを持った京子ちゃんが得意そうに立っていた。
「足立先輩は?」と聞くと「まだ起きられないんですって」と振り返って指さした先を見ると、ベッドに寝たままゆっくりと手を振る足立先輩の姿。その手は、まるで白鳥のように優雅に見えた。
「なんか、懐かしい感覚♪」
ラッキーを連れた京子ちゃんは、活き活きと砂の上を行進するように歩いていた。
「あら、ロンを連れて歩くのと、どこか違うの?」
何度かロンと散歩したことがあるので不思議に思って聞いてみた。
「だって、ご主人様の隣でリードを持っていても、それは何処まで行っても借り物でしょ」
たしかに、その通りだと思う。
「私ね、あれから考えたの。もしかしたら――いや、絶対にリョウは生きているって。それは同じ町かも知れないし、となり街やもっと遠くの街かも知れないけれど」
「探す?」
「ううん探さない。だって生きているってことは誰かに飼われて幸せに暮らしているってことだもの。今更探し出して“その犬返してください”なんて言えないし、そんなことしたらリョウも困ると思うの」
あの日、江角君が言った通りの事を、もう京子ちゃんは知っている。
もう、リョウを探す必要などないのだ。リョウは京子ちゃんの心の中で幸せに生き続けている。そして屹度ケイも。
「なんだか、置いて行かれちゃったな」
思わず口に出して言った言葉に、京子ちゃんが「なに?」と聞く。
「ううん。なんでもない」
私がそう言うと、いきなりロンが走り出して私も転びそうになるのを堪えながら走った。
ロンに吊られるようにラッキーも走り出して、京子ちゃんも私と同じようになりながら、夏の砂浜を駆けた。
※あの日、江角君が言ったこと⇒(月のなくなった夜㉒㉓参照)





