青い夏の日⑭
部屋に入って、シャワーを浴びた。
他の人たちは私が散歩に行っている間、順番に入ったそうで、足立先輩は運転で疲れたのだろう、ベッドサイドで眠るラッキーと一緒にもう眠っていた。
そして、はしゃぎすぎたのか京子ちゃんと、練習が終わって甲本君と駆けつけてくれた高橋さんも。
「美女たちは寝るのが早いわ」
そう言ってベランダのチェアーに座って風にあたっている私に、里沙ちゃんが温かいミルクティーを入れてくれた。
夏の盛りだけれど、夜の九十九里浜は潮風が涼しくて、ホンノ少しだけ肌寒い。
「あら、まだ起きている美女がいるわ」
有難うと言ったあと、その言葉を付け加えると里沙ちゃんはニコッと微笑んで隣に座った。
「今日ね、軽く千春に嫉妬しちゃった」
「わたし、に?」
「そうよ」
「なんで?だって私、里沙みたいに行動力もないし、意志も強くないし、女性としての見た目だって……」
「それは勝手に千春が思っていることでしょ。私から見た千春は、行動力もあって、意志も強くて、見た目も私なんて足元にも及ばないくらい素敵な女性だよ。って、女同士で褒め合っても空しいか……。でもね、江角にトロンボーンからヴァイオリンに換わらせたのは、やっぱ嫉妬して当然でしょ」
「えーっ。換わってなんて言っていないよぉ」
「でも、換わったことは事実でしょ」
「それは、そうだけど……」
「トロンボーンの江角と、ヴァイオリンの江角。一緒に演奏するなら、どっちが楽しい?」
「それは、やっぱりヴァイオリンかな」
私が答えたあと、里沙ちゃんは少し話を区切る。
街中と違って静かな夜。
昼間は余り気にしていなかったけれど、波の音が大きい。
「江角も屹度、千春と同じ気持ち……いいえ、千春以上に楽しいはずよ」
「そんな」
あのクールな江角君が、その程度の事で楽しいなんて思わないと思った。現に一緒に練習していてもいつも江角君は、伊藤君みたいに燥いだりしないし。
「あー。江角が羨ましいなぁ」
里沙ちゃんは、遠くの暗い海を見たまま静かに言った。
そして、里沙ちゃんの方に首を傾げて見ている私に優しく抱きつく。
大人しく足元で寝ていたロンが、私たちを見上げる。
「えっ?里沙。なに?」
「御免。少しだけ、このままでいさせて」
里沙ちゃんにしては珍しく、切なくて寂しそうな言葉。
私は、そんな里沙ちゃんの髪を撫でながら「いいよ」と返事する。
潮風が運ぶ、肌寒さが、里沙ちゃんの暖かさに変わった。





