青い夏の日⑦
コテージにつくと先ず荷物を部屋の中に入れ、それからタープを張り、テーブルやいすの準備をする。
その間中ロンとラッキーは、みんなの周りをウロチョロするだけ。
二人共本当は何か役に立てることが無いか探しているんだよね。
でもね、君たちは充分役に立っているんだよ。
だって、ほらご覧。
みんな疲れているのに、合間に君たちを見てニコニコと仕事に精を出しているでしょ。
「よーし。これで準備は終了!あとは着替えて泳ごうか」
茂山さんがロンとラッキーを撫でながら号令をかけると、みんなコテージの中に入って着替えた。
水着の方は、里沙ちゃんはパンツが短パンタイプのスポーツ水着で、京子ちゃんと私はフリルのスカートが可愛いワンピースタイプ。そして足立先輩がタンキニタイプ。
ペットと一緒に泳げる海岸だから、着替えると直ぐにロンを連れて海に走った。
私の横を、ラッキーを連れた足立先輩が追い抜いて行く。
さすがブリタニー犬だけのことはあって、ラッキーは海や川が大好きみたい。
波打ち際で減速するロンを尻目に、足立先輩を振り切るような勢いで海に飛び込んでいた。
みんなが海で遊んでいる中、砂浜で腰掛けて眺めているコバ。
「コバ。どう、泳がないの?」
伊藤が声を掛けるけれど「ああ」と気のない返事を返して海を見つめているコバ。
「おまえ、海ほたる出てから元気無くない?」
ここでも、コバは伊藤の問いかけに応えもしないで海を見ている。いや、海で遊んでいる皆を見ている。
「誰、見てるんだ?足立先輩?立木?古矢?それとも鮎沢?」
「うん」とコバは素直に応える。
「高校で会ったときから直ぐに好きになったんだ。最初は可愛いだけの子かと思っていたんだけど、木管大戦争の時に一緒に練習するようになって鮎沢さんの頑張るパワーって言うか真直ぐな所に心を打たれて好きになった。ああ、木管大戦争って言うのはね」
コバが、高校の違う伊藤に木管大戦争の事を説明しようとしたときに、伊藤は「知っている」と答えたあと、あの時の演奏は忘れられないと付け加えた。
コバも、あの時の演奏は素晴らしかったと思い出すように言い、なぜ高校の違う伊藤がその場所にいたかと言うことには触れず話を薦めた。
「でも、直ぐに気が付いたんだ。鮎沢さんが江角の事を好きな事。ほら困ったときとか不安になったとき、誰かに頼りたいと思うじゃない。そういう時に鮎沢さんは必ず江角の事をチラッと見る。そして嬉しい時も」
「鮎沢って、本人は意識していないつもりだろうけど、分かりやすいよな。そう言うところ」
伊藤が苦笑いしながら言うと、コバは「ああ、残酷なほど分かりやすい」と言って笑い、それから暫く犬たちと遊んでいる皆を見ていた。
不意に伊藤はゴロンと砂の上に仰向けになって呟く。
“俺も好きだった”と。
“えっ?”と、その呟きに戸惑ったコバが聞き返すと、伊藤は「空が青い」と言った。
“空が……”
そう言って空を見上げるコバ。
“たしかに空が青い”
「あの青い空の向こうには、なにがあるんだろうね?」
普通に考えると答えは“宇宙”。でも何か違う答えが欲しくてコバが聞く。だけど伊藤からは何の返事も返ってこない。
振り向くと、伊藤は仰向けに空に顔を向けたままスースーと鼻から気持ちよさそうな息を鳴らしていた。
「もう寝たのか」
そう言って、自分もその横に仰向けに寝転ぶ。
そして青い空を眺めながら、も一度呟く。
「この空の向こうには、なにがあるのだろう」と。





