月のなくなった夜㉓
荒れていた頃の足立先輩を思い出す。
京子ちゃんの事も。
でも、京子ちゃんにはまだリョウがいる。
「ねえ。ロンにリョウの匂いを嗅がして探してみようよ。もしかしたら近所で飼われているかもしてない」
我ながら名案だと思い、自信満々に言ってみた。
屹度、ロンなら探し出せる。
「ひまわり」
江角くんの口から出た言葉は“ひまわり”。
何のことか分からず「えっ」と、聞き返す。
「“ひまわり”と言う映画には続きがあってね」
前に私が聞いたのは、戦争で行方が分からなくなった恋人を探しに行った主人公は、瀕死の重傷の時に救ってくれた女性と暮らしていて、結局主人公は諦めて帰るところまでだった。
「あのあと暫く経って彼氏は、帰ってしまった彼女を追って故郷に戻るのさ」
「ハッピーエンドね」と思わず口に出してしまった。
「いや……。考えようによってはそうかも知れないけれど、彼女は恋人を追い返してしまうんだ。戦場で助けてくれた女性の所に戻れと」
考えが甘かった。
ロンがリョウを見つけられたなら、それは屹度新しい飼い主の家で育てられていると言うこと。
そして、もしリョウが未だ京子ちゃんを覚えていたとしても、決して戻ることはない。
今日、京子ちゃんは帰り際に「胸につかえていた物が解けた」と言ってくれた。
リョウを見つけ出すことにより、一時的にはリョウが生きているという喜びに癒されるかもしれない。
だけど、生きていると言うことは、いずれ来る別れも意味するのだ。
「そう。そっとしておけばリョウは想像の中でズット生き続けられる」
江角君が答えを言った。
月を見上げた。
夜の闇に、太陽の陽を受けて明るく輝く月。
闇を照らしてくれる月。
私たちが住みやすい環境を担ってくれている月。
最初から月が無かったら、その世界は厳しくとも当たり前の世界だったろう。
でも一旦月と出会ってしまったら……。
私はロンを抱き寄せた。
そして、いつかは私の月も無くなってしまうと思うと、いつのまにか涙が零れていた。
ロンを抱いている私を、江角君が抱き寄せてくれて言った。
「だいじょうぶ」と。





