月のなくなった夜⑯
と気まずそうに言ったあと、撫でていたロンが首を上げたので、今度は明るい声で「ゴメン、起こしちゃったね」と付け加えた。
すると、なにを思ったのかロンは上向きにした顔に倣う様に体も仰向けにする。
戸惑っている京子ちゃんに「撫でてあげて。もっと甘えたいんですって」と、ロンの気持ちを伝えると、京子ちゃんは「ありがとう」と、ことわってから撫でる。
複雑な感情なのだろう、優しい笑顔でロンを見つめながらも、その大きな瞳からは時折涙の滴が零れ落ちていた。
「三人で河原に行ってみない?」
「三人って?」と京子ちゃんが誰も居ない部屋を振り向く。
「あーゴメン。家ではロンも“人称”なの」
紛らわしい表現を謝ると、京子ちゃんはロンの胸を両手で手荒くクシャクシャと撫でながら
「この子が家族だと思っているんだから、親やお姉さんも確り受け止めてあげなくっちゃね。鮎沢ロン、散歩に行くぞ!」と言った。
手荒く撫でられることに有頂天になって喜んで、仰向けのまま暴れていたロンが京子ちゃんの言葉を聞くなり体をクルリと回転させて起き上がって“ワン”と吠えた。
それはまるで“待ってました!”と言わんばかり。
その仕草が可笑しくて京子ちゃんも私も笑い出すと、今度は催促するように“ワンワン”と二度吠えて、私たちは更に笑ってしまった。
それに対してロンは業を煮やしたように、私に飛び掛かるふりを何度もしたのでロンの頭を撫でて「ゴメンね直ぐ用意するから」と謝り、散歩の準備をした。
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