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月のなくなった夜⑫

 家について足を洗い体を拭く時も、ロンは“僕って偉いでしょ”と言わんばかりに京子ちゃんの事を見るものだから、京子ちゃんも「エライエライ」とロンを撫でていた。

 そして「私にもお世話させて」とタオルを手に取る。

 けれども、その手は久し振りなのか、それとも他所の犬なので遠慮しているのか、妙にぎこちない。


「遠慮しなくていいよ。噛まないから」


 思わずそう言うと、京子ちゃんは少し考えるように「うん」と返事をした。


 ケアが終わり、そのロンを連れて二人で二回に上がる。

 ロンが案内をするように先頭を切って階段を登って行くのが可笑しい。

 はりきっているのか、それとも唯一の男性として女性の後ろから付いて階段を登ることに抵抗があるのか。

“ん?そう言えば、少し短めのスカートをはいた京子ちゃんの後ろからだとパンツが見えちゃうからかな?”

 二人でお喋りをしている間もロンは紳士に振る舞い、私の傍に寄り添っていて、京子ちゃんが撫でたいと言うと体を傾けて京子ちゃんに体を寄せていた。

 おやつを持ってきたときにも、私たちのおやつを欲しがる訳でもなく、自分の分を“よし”と言われるまで普段通りに我慢していて、それを京子ちゃんが賢いと褒める。

 その姿に何故か違和感を覚えた。

 だって、食べ物の区別をハッキリ覚えさせるのは躾の上でも基本的な事だから。

 いや。躾と言うよりも、これはペットの健康に関する事だから人間側の躾でもある。


「リョウは、どんな犬だったの?」


 そう言えばリョウが柴犬で、事故で死んだことしか知らなかったので聞いてみた。


「リョウはヤンチャな犬で、ロンみたいに大人しくなかったよ」


“大人しい”と言われたのが可笑しくて、ロンの顔を見ると“なんだよぉ”と言わんばかりにロンも私の顔を見ていた。


「姉さんがね、可愛いからって自分の食べている物を分け与えていたから、直ぐにオネダリしてくるの。そのオネダリの仕方が凄く可愛いんだけど、だんだん肥満してくるし、私もリョウの健康に良くないことは分かっていたの。でも駄目だよって言っても姉さんは可愛いからって、止めなかった……」


 今まで明るかった京子ちゃんの顔に、影が差した。

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