月のなくなった夜⑦
街灯の灯りに、さざなみと汽笛のデュオがロマンチックな色を添える。
穏やかな海に冷やされた潮風が、心地好く髪を撫でてゆく。
「寒い?」
「ううん」
ノースリーブの私を気遣って、聞いてくれる。
でも、こうして腕を組んでいると、江角君の心と体の暖かさが伝わってきて、少しも寒さなど感じない。
逆に私のドキドキが、腕を通じて江角君に聞こえそうで困っちゃう。
埠頭沿いを暫く歩いて、船が係留されている傍のベンチに腰掛ける。
ライトアップされた、その船の船尾には“丸川氷”と船の持ち主らしい社名か商品名が書かれてある。
「もう直ぐ、かき氷のシーズンだね。江角君は何味のかき氷が好き?」
「宇治金時の練乳掛け。鮎沢は?」
「私は、イチゴの練乳掛け。練乳繋がりだけど宇治金時って言うのが渋いね」
それから暫く、かき氷の話をした。
海で食べるのと美味しいとか、山で食べるのが美味しいとか、夏祭りで食べるのが美味しいとか。
話の流れで、花火大会に一緒に行く約束を取り付ける。
「ところで、どうしてまだ横浜に居たの?」
午後の講義が終わって大分時間が経っている。
だから、江角君には会えないと思っていて、せめて声だけでも聞きたくて電話した。
「海を見ていた」
「海?」
「そう。大学の帰りに、ここでズット海を見ていた」





