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月のなくなった夜⑤

「すてき~。可愛い」


 思ったままを素直に口から出すと、京子ちゃんは「でしょっ♪」と無邪気な笑顔を見せてくれた。

 それから二人で、お互いの大学の話や、友達のこと、一緒に行っているバイトのことを話していて、あっと言う間に時間が過ぎていた。

 ちょうど話が途切れて、京子ちゃんと音楽の話をしているときだった。

 レースのカーテン越しに挿しこんでくる夕日。

 真っ白な壁が赤く染まり、まるで血の様。

 そう思って、ハッとする。

 忌まわしい過去を忘れようと頑張っている京子ちゃんに対して悪い。

 その京子ちゃんは、譜面を見ていて私の様子には気が付いていなかった。

 前に、お姉さんとリョウの居なくなった環境から逃げ出すために福岡のS女子高に行ったと聞かされた。

 その時から、私は過剰に京子ちゃんの事を心配していたのだろう。

 けれども、この明るい部屋の中に居る京子ちゃんは、いつも外で見る溌溂(はつらつ)とした京子ちゃんのまま。

 そう。若い私たちは何があろうとも留まっては居られないのだ。


「ねぇ。京子ちゃんは大学を出て将来難になるつもりなの?」


 未来(さき)に進もうと思い、そんな質問が口から出る。


「音楽家になる事だよ。千春も一緒にやろうよ」


 即答した京子ちゃんに聞かれて戸惑った。

 私は将来について未だ考えても居ない。


「千春も一緒に音楽家になろうよ。あーっ、でもトロンボーンとオーボエの二重奏はナカナカ無いか」


 そう。

 だから江角君はトロンボーンからヴァイオリンに変えたのだ。

 私とディオをするために。

 それは屹度、私の自惚れだけではないはず。

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