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月のなくなった夜④

「触ってもいい?」


 痛みに触れてはいけないと知りつつ、思わずそう言葉に出してしまったのは、首輪に付いている模様が気になったから。

 決してデザインではない。

 手に取って見ると、それは私の思った通り“血痕”だった。


「姉さんの血か、リョウの血か。それとも、その両方なのかは分からないわ」


 そう言った京子ちゃんの口調が、どこか冷たいように感じられた。


「行きましょう。この部屋は今使っていないの」


 そう言われて初めて気が付く。

 亡くなったお姉さんの机と同じように、京子ちゃんの机にも中学の教科書が並んでいることを。

 ただし、こちらは一年だけ時が先に進んでいた。

 部屋を出る京子ちゃんに付いて、私もこの部屋を離れる。

 ドアを閉めるとき、最後に目に入ったリョウの写真が悲しそうな目で私を見ていた。

 ドアを閉めることを一瞬躊躇った私に京子ちゃんが、どうしたのか尋ねてきたので、どうもしないと答えてドアを閉める。

 最後の隙間から見えたリョウの写真の隣には、姉の涼子さんも同じ顔をして私を見ていた。


「高校から別々の部屋になるはずだったのよ。でも、私は福岡に出て行ったから、まだ使いたてホヤホヤなの」


 元の明るさを取り戻した京子ちゃんが部屋を開けると、そこには女の子らしい可愛い空間があった。

 ミッキーやミニー、それに熊のプーさんの縫いぐるみ。

 それも、大きいやつ。

 浅葱(あさぎ)(いろ)の絨毯に、真っ白の壁。

 マホガニーの落ち着いた机の後ろには、同じ材料で作られたベッド。

 そのベッドに敷いてあるシーツはトイストーリーの模様。

 心に闇など無いと言わんばかりに、明るくて、見ているだけで楽しくなってくるような部屋がそこにあった。

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