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月のなくなった夜③

 二つ並んだ机の片方には、中学校の教科書や参考書が綺麗に並ぶ。

 その様は、まるで小学生になる前の真新しい机の様子に似ている。

 机の横のハンガーには、明日の朝直ぐに着て行けるように制服が掛けられてある。

 少しも埃をかぶっていない机に、制服。

 屹度、毎日掃除をしたり定期的にクリーニングに出されているのだろう、五年の歳月など微塵も感じさせない。

 机の上には、犬の写真も飾られていた。

 お姉さんと散歩に出て、一緒に交通事故に遭って亡くなった柴犬のリョウだろう。


「あれっ?そう言えば、この制服って」


「そう。さっきの」


 今頃気が付いたその制服は、京子ちゃんの通っている大学のキャンパスで見た付属中学の制服だった。


「だって、居られないでしょ。家でも学校でも姉の亡霊から逃げられない生活なんて」


 双子で同じ学校に通っているから、お姉さんの友達の同級生も多く居るだろう。

 そして中高一貫校だから、それが高校まで続く。

 いくら京子ちゃんが忘れようとしても、いつ友達の口からお姉さんの話を振られるか分からないし、亡くなったお姉さんのことについて気遣ってもらうのも嫌だったのだろう。

 中には興味本位で、京子ちゃんの心に踏み込んでくる人も居たかも知れないと思うと、遠く九州のS女子校まで転校した気持ちもよく分かる。

 この部屋に入っただけで、暗い悲しみに押しつぶされそうになっている私。

 実の姉妹が死んだわけでもなく、飼い犬が死んだわけでもない只の部外者。

 ふたつの死について語る術も、そういう権利もない。

 涙を流すことさえ。


「ここに掛けてあるのがリョウの首輪。最後にしていたやつを保健所が残して置いてくれたの」


 京子ちゃんが指さした先には、青色に黒い斑点模様の付いた首輪が掛けてあった。

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