月のなくなった夜①
今日は午後一の講義で終了。
桜木町まで江角君と一緒に行き、そこで私だけ根岸線に乗り換えた。
本当はもっと一緒に居たかったけれど、京子ちゃんと約束しているから仕方ない。
根岸線を石川町で降りて、高速道路の下を通る陸橋を渡り坂道を登る。
なんだか観光地みたいな街並み。
行ったことはないけれど、神戸異人館って感じの家も何軒かある。
坂を上り切ると二車線の広い道沿いに歩く。
う~ん、やはり私の家の周りとは全然違う家並みと景色は観光地みたい。
暫く歩くと直ぐに目的の大学が……。
“えっ、なんか間違えていない?”
そう、洒落た塀の向こう側に見えるのは、まるで若草物語や赤毛のアンにでも登場しそうな洋館。
うちの大学とは雰囲気が全く違うその洒落た外観に、少し憧れてしまう。
そして、この道を更に先に進めば本牧山頂公園、元町の方に降りれば、港の見える丘公園・外国人墓地・元町繁華街・山下公園と続く観光地。
そういった地理的環境もあるのか、通り過ぎる同年代の女性たちのファッションが心なしかお洒落に感じる。
「千春~!」
良く通る綺麗な声で名前を呼ばれた。
京子ちゃんだ。
声のした方向に振り向くと、校舎の脇から一目散に駆けて来る可憐な姿が目に入る。
京子ちゃんは、傍まで駆けて来ると、私の腕にとまった。
ハアハア息を切らしている京子ちゃんに“そんなに急がなくても良いのに”と言うと「駄目、幸せはいつなくなってしまうか分からないから」と笑顔で返された。
京子ちゃん自体、その言葉はごく自然に出て来たものらしいが、何だか拭いきれていない心の闇を感じる。
そう、幼い日、不意に双子の姉と愛犬を無くした闇。





