表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
521/820

ミルクを零した河⑯

 新幹線の通り過ぎる音に驚いて江角君を軽く押すと、まるで無重力状態のようにそのまま離れ、押してしまった事を後悔する。

 さっきの新幹線は、何本目だったのだろう?

 キスされる前に通った新幹線の次かも知れないし、何本も通った後なのかも知れない。

 キスしているときは、時間感覚さえ解き放たれている。


「あるこうか」


 ほのかに香る川の匂いにつられて、そう言ってベンチを立つ。

 珍しくナカナカ立とうとしない江角君に手を差し伸べる。

 江角君は私の手を取り、漸く立つ。

 そのまま匂いを辿って公園を進むと、コンクリートに捕らえられてしまった可哀そうな川があった。

 高い両側の塀に囲まれて、そこの方を窮屈そうに流れている。

 でも、その高い塀にはこの物静かな水たちの心が抑えきれなくなった時の底知れぬ力が刻まれている。

 五メートルくらいの高い塀の上から一メートルくらいにクッキリと残っている汚れた線。

 その線より僅か上にある橋げたの鉄骨。

 もう少し川が高くなっていたら、今目の前にある橋は強烈な川の力に押し流されてしまうのだろう。

 そして更に川の水が込み上げてくると、この街までも。

 そう考えると、今はおとなしくて静かなこの(せせらぎ)も仮の姿なのかも知れないと思えて不気味に感じた。


 私がそう感じたとき、江角君がポンと肩を叩いてきて、降ろした顔を上げる。


「ほら、上にもあるよ。ぼんやりだけど、もっと雄大なやつ」


 なんだろうと思い、指さされた空を見上げると、本当にぼんやりだけど薄っすらミルクを零したような河に見える部分が空を流れるように横断していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ