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ミルクを零した河⑨

 初日は、お昼二時から夕方の八時までバイト先で仕事をした。

 里沙ちゃんは直ぐに何でも出来るようになったけれど、京子ちゃんと私はその間ズット小林さんと村越さんに付いて貰っていて、覚える事と体の動きが同調しなくて“てんやわんや”

 椅子に座って先生の話を聞くのとはまるで違い、仕事をしてみて初めてお父さんやお母さんたちの苦労が分かる。

 社会人は大変だ。

 バイトが終わって、クタクタになって家に戻ると、いつも通りロンが玄関に迎えに来てくれて“匂いのチェック”

 今まで人の目を気にしていたから普通に電車に乗り、歩いて家まで辿り着くことが出来たけれど、玄関に入るなり一気に気が緩み、その場に寝転ぶ。

 ロンの匂いチェックが、立っていた時に届かなかった上半身に移動して来ると思っていたけれど、なんだか膝のあたりで止まったまま。

“なんだろう?”と思って首を上げると、膝の怪我のところで止まっていて漸く怪我の事を思い出す。

 ロンは包帯で巻かれた膝を心配そうに見ながら、その周囲を早く治るようにペロペロと舐めてくれる。


「君は、いつも優しいね」


 そう言ってロンの首を抱き、そのまままた横になる。

 ロンと私の顔の距離は約十センチほど。

 ロンが私をジッと見て、それから顔を舐める。


“あー、いま馬乗りになられたら何の抵抗も出来ないだろうな”


 そう思ったけれど、それでも良い。

 ロンに触れられるだけで、何だか少しずつ疲れが抜けていく。

 触れられたカ所の、緊張していた筋肉が徐々に緩むのが分かる。

 しかし今日のロンは上には乗らないで、私の肩に頭を乗せて大きな瞳で私を見る。

 スーッと肩から上半身の緊張が解けて、気持ちも次第に楽になって行く。

 しばらくそうしていると、ナカナカ部屋に入ってこない私を心配したお母さんが玄関まで来て、呆れて言った。


「新婚旅行は後にして、すぐお風呂に入りなさい」と。

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