ミルクを零した河⑥
「あっ、すみません」
「大丈夫?怪我はない?」
背の高い人が転んだ私の足に付いた砂を払ってくれ、そのまま少しだけ赤くなった私の膝を見ていた。
「軽い擦り傷が出来ましたね、捻った足首の方はどう?」
言われるまま足首をグルグルと動かそうとすると「ちょっと待って!」と止められて、眼鏡の人の肩に掴まるように言われ素直に従うと、足首を上げて自分で上下に動かしてみるように言われた。
「痛くない?」
「大丈夫みたいです」
私がそう答えると、今度は私の足を直に掴んで上下方向に動かせて具合を聞き、その次には左右の捻り方向に動かせて具合を聞く。
その間、私が我慢していないか探るように、私の表情を確認していた。
「捻挫は大丈夫そうだね。もともと運動神経が良いのか、運動靴の紐をキチンと結んでいたのが良かったのかな」
そう言って優しい笑顔で笑うと、担いでいた自分のリュックの中を覗き込んでいた。
迷惑を掛けているのに、褒められたみたいで気持ちがいい。
気持ちが良いと、心にも余裕が出来る。
そして背の高い男の人が何を探しているのだろうとボーっとして見ていると、隣で咳払いが聞こえ、眼鏡の人にズット掴まったままだったことに気が付いて慌てて手を放す。
再び目を戻したとき、背の高い男の人が手に持っていたのは食品を包む“ラップ”とペットボトルの“水”
先ず、ペットボトルの水をハンカチに充分染ませて、私の少しだけ赤くなった膝に押し当てて、それから適当な大きさに切ったラップを貼り付け、仕上げに軽く包帯を巻く。
「ハイ出来上がり」
“えっ。なに?治療してくれたわけ?”
それにしても赤くなっているだけとはいえ、ラップなんか貼り付けたら傷口が化膿してしまうんじゃないかしら?それに水も。
「家に戻ったら、そのラップ剥がせばいいから。もしたくさん汁が出ているようなら張り替えてね。じゃあお大事に!」
そう言うと背の高い男の人はサッと手を上げて、元の進行方向に進みだす。
隣に居て支えてくれていた眼鏡の人も「じゃぁ」と小さくお辞儀をして駆け足で追い駆けて行く。
「お医者さん……?」
そうつぶやいたあと、見ず知らずの男の人に脚を触られ、間近で見られたことが急に恥ずかしくなった。
しかも今日は膝丈くらいのスカート。
ラップを貼られた擦り傷よりも、顔のほうが赤くなった。





