ミルクを零した河⑤
“廊下を走るな!”
学校で、そう教えられていたのを忘れていた。
何故走っては、いけないのか?
それは、教室の出入り口という見通しのきかない“通路”と交錯するから。
街中も同じ。
店舗の出入り口や、建物の影に通路がある。
そして、そこから出てくる物は人だけではない。
自動車やオートバイ、エンジンのない静かな自転車なども。
そして、私の目の前に急に飛び出してきたのは“猫”
誰かに脅かされたのか、一目散“風のよう”に駆ける猫が歩道を横切る。
ちょうどその進路と、走っている私が次に繰り出す脚の着地地点と重なってしまう。
私は慌てて軌道修正して、猫を避ける。
慌てて避けた分だけ体が斜めになりバランスを崩すと、コースも横にずれてしまい本来なら避ける必要もないくらい余裕がある場所を歩いている人にぶつかりそうになり、それを避けようと更にバランスを崩す。
「キャー!」
ギリギリ避けられたと思った瞬間、足首を捻ってしまい転ぶ。
自分が悪いのに“キャー”と悲鳴をあげてしまうと、何だか他人のせいにしたようで気が悪い。
「大丈夫ですか?」
今、私が避けた大学生風の二人連れ。背の高い方の人が道路に座り込んだ私を心配そうに覗き込んだ。
もう一人の眼鏡の人も続いて心配そうに見ていた。
「だ、大丈夫です。すみませんでした」
返事をして立つ前に、歩道を横切って道路に出てしまった猫が気になり振り返る。
「猫くんは、運良く横断できたみたいだよ」
背の高い人がそう言って、起き上がろうとする私の腕を持って補助してくれた。





