ミルクを零した河②
「千春って、いつまで経ってもネンネだと思っていたけれど、最近少し違うみたいね」
テーブルを囲っている足立凛香、百瀬瑞希、古矢京子の三人のうち足立凛香がパフェをつつきながら言った。
古矢京子が犬と遊んでいる鮎沢千春を見て振り返り「ネンネって、お眠することですか?」と聞くと百瀬瑞希が、年のわりに子供っぽくて世間を知らないことだと教える。
古矢京子は、その回答が不満なのか「そうかなぁ……」と、また千春の方に顔を向けた。
「やっぱ江角だね」
興味津々の足立凛香の態度に百瀬瑞希が“まあまあ”と宥めるように言ったとき、古矢京子が“全然ネンネなんかじゃありません”と言い席を立った。
二人が唖然として見上げると、古矢京子はそのまま千春の所に行き一緒に犬たちと遊び出した。
「ネンネが二人」
足立凛香が笑ったので、百瀬瑞希が“しっ”と、人差し指を立ててたしなめる。
それが気に入らないのか足立凛香は中指を立てて返した。
「あらあら、先輩方“喧嘩”ですかぁ?」
テーブルに冷たい水を運んできた立木里沙が、そう言いながらそのまま空いた椅子に腰かける。
「ううん、千春の事を話していたのよ」
「最近、ますます可愛くなっていますよね」
百瀬瑞希の言葉に、立木里沙が返す。
「可愛いつーか、千春っていつまで中坊のままなんだ?心の中身は幼児のままで純粋だし」
「キライなの?」
足立凛香の言葉に、首をかしげて百瀬瑞希が聞くと立木里沙も身を乗り出してきた。
足立凛香は白状するように言った。
「高校に入って来た時から目を着けていたのよ。演奏もまあまあ出来たし、可愛かったし。それで当時あったAグループに入れるように実晴(山下)に言ったくらいよ」
「もし、木管戦争のとき千春が退部していなくて私たちのチームに入っていたら?」
立木里沙が、長年の疑問を足立凛香にぶつけると、凛香はペロッと舌を出して
「酷い虐めに合って、もう音楽なんて嫌いになっていたでしょうね。あの頃の私たち……いいえ、私は物凄く性格が悪かったから」
なるほど、と言うように立木里沙が百瀬瑞希を見つめると「原因は知らなかったけれど、あの頃の足立先輩って、自分がどうなっても構わないと思われるほど荒れていましたから」と答えた。
「その原因も、千春が解決してくれたんだよねぇ~」
足立凛香が、向こうで犬たちの背をする千春を見つめると、百瀬瑞希と立木里沙も同じように千春の方を向くと、隣で仲良く一緒に犬たちと遊ぶ古矢京子が映る。
三人は、千春と仲良く遊ぶ古矢京子の事が少しだけ不安になった。





