結婚⑲
「大体、美貴姉と親しいなら俺の匂いも察しろよ。まして同じ苗字なんだから!」
「えっ、でも……」
助けを求めるように振り返ると、みんな優しく微笑んでいた。
“どうやら、伊藤君が従弟だと言うことに気が付いていなかったのは、私だけのよう”
そして伊藤君に怒られて思った。
たしかにロンなら臭いで血の繋がりなども分かってしまう。
だけど私は犬ではないから、鼻は利かない。
だから、どうしても見た目の印象や、相手の容姿・性格などで判断してしまう。
美人で聡明で落ち着きのある美樹さんと、落ち着きのないお調子の伊藤君だと、どうしても親戚だなんて思わない。
苗字が同じだと言っても、伊藤という苗字って結構多いはず。
等々、自問自答して自分を擁護してみる。
「だいたい鮎沢は人間関係に対して鈍すぎるんだよ!」
伊藤君から、とどめの一言。
たしかに私は人間関係に疎い。
それは自分でも分かっていて、学生生活ならまだしも、このまま社会に出られるのか不安に思う事さえある。
そんな私の顔色を察したのか、伊藤君が「悪りぃ。言い過ぎた。言葉のアヤだって」と謝ってきた。
私は直ぐに“なんでもない大丈夫よ、それよりゴメンね気が付かなくて、しかも勘違いしていて”と返す。
言葉を返した後、なぜか急に鼻がツンとして、眼も潤んできた。
マズイ、涙が出る。
江角君にロンのリードを預けて「ちょっと、お手洗いに行ってきまぁ~す」と明るく笑って駆けだした。
でも、向かった先は、お手洗いを通り過ぎた先の通路を抜けた中庭。
“人間関係に対して鈍すぎるんだよ”
伊藤君の言葉が胸に突き刺さる。





