結婚⑰
スッカリ機嫌を直した恵ちゃんは、綾香さんの言うこともチャンと聞けるようになった。
「私も、犬飼おうかしら」
そう言って綾香さんが眉を下げて笑い、私も同じようにして笑い返す。
綾香さんの家では、動物が飼えない。
犬屋や猫を飼う上で色々なルールがある。
借家だと大家さんの許可が必要であるとか、高齢者のみの世帯では飼えないとか。
そして飼う側で、最も大切なことが“家族全員が飼うことに賛成であること”
綾香さんの家はマンション。
そして旦那さんは動物アレルギー。
優しい旦那さんだから、綾香さんと恵ちゃんが“飼いたい”と駄々をこねれば、それを許すだろう。
だけど、健康的な理由で同居は出来なくなる。
つまり、無理して犬を飼ったことで、家庭が崩壊してしまうのだ。
こうなると、人間にとっても犬にとっても幸せとはいかない。
もちろん子供に手が掛かるとか、仕事が忙しいとかで犬の世話を押し付け合う環境になっても良好なペット環境とは言えない。
ペットを飼う上で重要なのは、それがペットではなく家族であることだと思う。
「結婚式が始まりますので、チャペルの方に移動してください」
ほどなくして式場の人が移動を促す。
「千春」
お母さんに手を引かれた方向は、チャペルとは逆の部屋。
ドアを開けると、部屋の明りに慣れた目には眩し過ぎるくらいの窓から挿す明り。
一瞬ホワイトアウトした明りの中から、純白のウェディングドレスを纏った美樹さんが浮き上がる。
白く細長い“うなじ”が艶々と輝いていて同性の私でさえ羨ましくなるほど色っぽい。
ロンが、それにつられて美樹さんの傍へ吸い寄せられる。
私がそれを止めようと、リードを握ると美樹さんは「いいよ」と言い。しゃがんでロンを受け入れる。
美樹さんに抱かれるロン。
「千春も来て」
言われるまま、ロンの隣に座り抱きついた。
美樹さんは、長いまつ毛の下から涙を薄っすら浮かべながら「ありがとう」と言った。





