結婚⑯
恵ちゃんの手を取って、ロンの頭を撫でさせる。
最初は嫌がっていた恵ちゃんの手が、しばらくすると自然にロンを撫でるようになる。
ロンは撫でられるまま、じっと恵ちゃんを見ている。
小さい子が相手だと、緊張してしまうロン。
最初は、そういった歳の子供が色々と予想できないことをしてくるからだと思っていたけれど、最近それは違うような気がしてきた。
子供の動きが予想できないのではなくて、子供が自分の動きを予想できないからジッとしている。だって大人と違って、小さな子供はビックリすると直ぐに泣いてしまうでしょ。
そう思って見ていると、ロンはやっぱり面白い。
恵ちゃんが慣れて来て、首を抱っこしたり、耳を引っ張ったりしても我慢している。
特に恵ちゃんが背中に乗ろうとしたときは、さすがに私に“助けて”とアイコンタクトを送ってきたので、助けてあげた。
もしも今、嫌がっている事を相手に伝えるために吠えてしまうと、恵ちゃんは驚いて泣き出すだろう。
ロンには屹度それが分かっていた。
「恵ちゃん、もうすっかりロンになれちゃったねぇ」
背中に乗ろうとする恵ちゃんに声を掛ける。
気が散って、乗ることを諦めてくれれば良いのだけれど、そうはいかないみたい。
首を後ろ向きにして私を見ているロンの目が“早くしてよぉ~”と催促している。
私はロンに伏せをさせた。
それは、恵ちゃんが乗りやすいようにではなくて、ロンと恵ちゃんがもっと仲良しになれるように。
そして恵ちゃんにロンは馬ではない事と、犬は背中の骨が弱いから人を乗せることが出来ない事を教えた。
「恵ちゃんが大好きでお散歩で走る事が大好きなロンだから、背中に恵ちゃんを乗せることが出来るのだったら、もうとっくに背中に乗せて走っているでしょ。それが出来ないからロンはジッとしているのよ」
「恵が乗ると死んじゃうから?」
恵ちゃんが心配そうに聞いてきたので、保育園の先生みたいに同じ目線で答えてあげた。
「背骨が折れちゃうと死んじゃうかも、だからそうならないようにロンはイヤイヤしていたんだよ。だってロンが死んじゃったら恵ちゃん悲しいでしょ?」
「うん。悲しい」
少し神妙になった恵ちゃんの頭を摩りニッコリ微笑み、そのまま座る。
そうして先に伏せをさせておいたロンを膝元に引き寄せた。
「ロンは、とっても私たちの事が好きなのよ」
そう言って恵ちゃんを抱き寄せて、ロンの隣に座らせる。
恵ちゃんは素直な子だから、私の意図することを直ぐに理解して、その場に横になりズットロンの事を撫でていた。
ほぼ同じような大きさのロンと恵ちゃんが揃って横になっている。
その姿を見ていると、何だか羨ましく思えてきた。
私がロンと出会ったのは、小学五年の時。
もう小さい子供とは言えない歳だったから。
もっと小さい時にロンと合いたかったな。





