結婚⑮
ロビーで江角君と話していると、しばらくしてお母さんが呼びに来た。
四年前に結婚した、従姉の彩香さんの“恵ちゃん”が、愚図って言うことを聞かないと言うことで、ロンの出動要請。
私は今、物凄く江角君と話していたい気分。
もっと正直に言えば、このままどこか人の居ない所に連れて行ってもらってキスしてもらいたいとさえ思っているくらい。だから、お母さんに「いいよ」と言ってリードを渡そうとした。
お母さんは私の、予想しなかった行動に一瞬戸惑ったみたいだったけれど、直ぐにリードを持つために手を伸ばす。
隣の江角君がロンを見るのが見えた。
“なんで、ロンを見るの?もっと私を見て”
何故かわからないけれど、そう思ってしまう。
なんだか、別人になったような今の私。
そして次の瞬間、ロンが私に吠えた。
急なロンの声に、心臓の鼓動が一瞬止まるほど驚き、そこから何かが飛び出て気付く。
“わたし、なにをやっているのだろう……”
お母さんに渡し掛けていたリードを確り掴み、江角君に“また後でね!”と明るく言い、恵ちゃんの居る親族控室に急いだ。
ロンと一緒に控室に入ると、愚図って泣いている二歳の恵ちゃんが立っていた。
横で彩香さんが、しきりに“どうしたの?”と困った顔で聞いている。
まだハッキリとは喋れないから、穏やかな時はお互いに話も理解しやすいけれど、こうなると意思の疎通が難しい。
恵ちゃんは屹度何かを感じて、それを伝えたいのだけど、それを言葉でどう伝えれば良いのか分からなくてパニックになっている。
と、そんな気がした。
「どうしたの?恵ちゃん」
私も聞くけれど、一旦こうなったら子供は難しい。
「ほら、ロンが来たよ。なんだろうな?恵ちゃん。どうしたのかな?」
ロンに代わって、通訳して話す。





