結婚⑦
「なにキョロキョロしていたの?」
江角君の傍まで行くとニッコリ笑顔で聞かれ、さすがにグランドピアノが何処に置かれているのか探していた。なんてことは言えずに、風が綺麗だなと思って見ていたと答える。
実際、今日は綺麗な風が肌を優しく撫でるように吹いていた。
江角君は「ふぅーん」とだけ返事をして、私の足元に目を移す。
そこに居るのはロン。
ロンは珍しく江角君のズボンの臭いをしきりに嗅いでいた。
「ロン止めなさい」
慌てて、ロンの背中を後ろに触り止めることを促すと、意外なほど素直に言うことを聞いてくれた。
「賢いな。直ぐに言うことを聞く」
「ありがとう」
自分で言うのもなんだけど、ロンは本当にお利口さんで言うこともよくきいてくれる。
だけども、今日はロンにとって“恋敵”との直接対決なので私の言うことなんて聞いてくれないと思っていた。
二人は初めて会うわけではない。中学三年の星の見える山の演奏会でも、この河原の練習でも何度か会っている。
だけど、それは私の友達の一人として。
今回の江角君は、もう友達じゃあない。
私の、こ・い・び・と。
そこまで考えたとき顔が赤くなるのを感じて、江角君に見られないように俯いてロンを撫でていた。
ロンは驚いたように目を大きく見開いて、そんな私をジッと見ていた。





