ロンの病気⑤
「毒……」
目の前が真っ暗になる。
私は、ロンのために何も力になれていない。駄目な飼い主だ。
代われるものならロンの代わりに死んでしまいたい。
本気でそう思った。
「千春……」
お母さんが私の感情に気が付いて肩をゆすって励ましてくれた。
先生が話の続きを言っている。
「毒と言っても、おそらく除草剤だと思います。効果が表れるまでは撒いた人以外には分からないし、衣服を着て靴を履いている人間にはほとんど害は有りません。最近では日常的に撒かれるようになりましたね。それでも衣服を着ていない犬や猫たちにとっては毒です。胃がもたれたときに彼らはワザと草を食べますし、顔の周りや体(特に足)に着いた異物に対して舐めて綺麗にするという習性がありますから」
お母さんが心配そうに治るのか聞くと、昨日の夕方の散歩個所が原因ならば発症まで1日かかっているので摂取した毒の量も左程多くはないということと、もっとひどい場合は「黄疸」と言って白目の部分や歯茎の色が黄色く変わるといって、まだ黄色になっていないロンの目を見せてくれた。
治療室の中に点滴が用意さて、抗生剤の注射もうたれた。
点滴の間中、私はロンの顔の傍にいて頬や頭を撫でていた。
点滴が終わると薬を渡されて帰った。
車に乗せたロンはズット私の膝に頭を乗せておとなしくしていた。
数日のうちにロンは、あんなことなんてなかったようにケロッと元気になった。
私は嬉しいとともに、注意してあげられなくて申し訳なくてまともに顔を見られなかった。
私が空き地に入ろうとするロンを止めていれば、こんなことにはならなかったのだ。
落ち込んでいる私にロンは、あんなことなんてなかったように私の顔を舐めてきた。
ロンの優しさに照れずにはいられなかった私が「こらぁ。もし私の顔に毒が付いていたらどうするの!」
もちろん私の顔には毒など着いていない。
大人じゃないから化粧もしていない。
化粧品はロンにとって体に悪そうだなと考えていたとき、体が押し倒されるのがわかった。
またいつもどおり押し倒された私の上に乗ったロンが私の顔を舐める。
「毒なんてないから安心して舐めなさい」
ロンの頬を両手で持つとロンは一瞬離れて私の話を聞いてくれた。
……でも、そのあとはいつも通り息もできないくらい舐められて、足をバタバタさせてお母さんに助けてもらった。
あれから一週間後、気になって空き地の前を通ってみると、あれほど青かった草たちは全部黄土色に枯れて、草に隠れていたスキー板が見えていた。
ロンがそのスキー板を立ち止まって見ていた。
私はリードをきつく握った。
しばらくスキー板を見ていたロンが歩き出した。
お利口さんだから、もう空き地に入ろうとはしなかったし、私も入らせなかった。
枯れた草を見ていて、一つ間違えばロンもこの草たちの様になっていたかもしれないと思うとゾッとして、改めて飼い主の責任の重さを感じた。
ロンは病院の先生の問診にも答えられない。
自分に害があるかどうかも分からない。
痛くても痛いと言わない。
だから私がロンの様子をチャンと見て、いろんな知識を身に着けて安全かどうかも考えてあげて、そしてロンの気持ちに気が付いてあげなくてはならない。
ロンとのお散歩は楽しい。
でも外には沢山の危険が隠れている。
だから私は頑張る。
楽しいロンとの散歩や生活のために。





