結婚②
今日のロンは、いつもより執拗で容赦がない。
私の後をいつまでも付いて来て、時折自分の抗議の答えを催促するように吠える。
手と顔を洗い、居間に行き腰掛けようとした時なんか、先に私の座るソファーの上に乗って“答えを出すまで座らせない!”と言わんばかりに吠えた。
いつもなら軽くあしらうはずの私も、今日は何故かカチンときて椅子に座らずに絨毯の上に座って相手をしないし、ロンもソファーを空けない。
私たち二人のいつもと違う雰囲気を察した美樹さんが、椅子の上に頑張っているロンを捕まえて抱く。
美人に抱かれて、漸く私への抗議の意識が消えたのはいいけれど、今度は私に甘えられない分美樹さんに甘えるロンを見ていると何だか腹が立つ。
何のつもりかは分からないけれど、ロンは美樹さんに撫でられながら時折私の方を見る。
見られた私は意固地になり、当然無視!
“美人に撫でられて鼻の下を伸ばしたロンの顔なんて、まっぴらだわ”
それでも気になり、しばらく間をおいてロンをみると、もう私の事なんか少しも意識していないように美樹さんの顔をとろけたような目でジッと見ていた。
兄が美樹さんを連れて家に来たのは、六月に行われる結婚式の話なのだけど今の私の耳は、内容は聞こえても何故かそれを覚える脳に上手く繋がらない。
聞こえた情報が右から左に流れて行き、話に合わせるのがやっとだった。
帰り際に、美樹さんが久し振りにロンと散歩がしたいと言い、お共に私が指名された。
「ハイ!」
散歩に出ると、美樹さんは直ぐに持っていたリードを私に渡し、何の抵抗もなく私はそのリードを受け取る。
いつものコース。
手に持ったリードに目を移したあとロンを見ると、ロンも私を見る。
いつものベンチに行き、腰掛けて、空を見上げると今日も星空が綺麗に瞬いていた。
「やっぱり面白いわね」
美樹さんが、唐突にそう言って私を見る。
「なんのことですか?」
私が聞き返すと、ロンと私の関係だという。
少し心がふさいでいた今の私には、言われる意味がよく分からなくて聞き返した。
「嫉妬」
美樹さんは、そう言って優しく微笑んだ。





